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ラジオ出演 [仕事]

『アラブ・ミュージック』の出版を記念し、とあるFM放送局でのラジオ番組の収録に呼ばれました。場所は半蔵門のTOKYO FM。

「トランス・ワールド・ミュージック・ウェイズ」という番組だが、ワールドミュージックに限らず、毎週いろんなジャンルの音楽を手広く紹介している。放送するのは、FM東京の系列局で、ミュージックバードというCS衛星デジタルの音楽専門チャンネル。くわしくはこちら。あと、この番組自体はFM仙台、FM静岡でもオンエアされるそうです。

この番組では「好きな曲を紹介してもらって良い」とのことだったので、いつも通り、いや、いつもにも増して、エジPOP中心主義で選曲しました。のっけからマリアの「El'ab」で登場するなど、やや頭悪そうなラインナップです。そんな調子で1時間、11曲流してもらいました。

それにしても、プロの仕事の手際の良いこと!いつも授業などで曲を紹介するときは、曲の紹介をしながらも頭の半分ではパソコンのマウスやらDVDのリモコンやらスピーカーの音量つまみやらのことを考えてなければいけないわけですが、今回はそういう意味では、曲を流す手順などについては全く考える必要がなく、喋る内容に集中できました。しかし、だからといって、急にそんなにおもしろいことが喋れるわけでもありませんが。

放送日程は以下のとおり。

5月10日(土)
 5:00~6:00 FM仙台
 28:00~29:00 K-MIX(FM静岡)

5月11日(日)
 10:00~11:00 MUSICBIRD Cross Culture(11-1)

ちなみにかけてもらった曲目はこんな感じ。0. El'ab / Maria 1. Allem Alby / Amr Diab 2. El-Layaly / Nawal el-Zoghby 3. Eeh Da Ba? / Hakim 4. Garh Tani / Sherine 5. Ol Tani Eeh / Nancy Ajram 6. Ya Hayat Alby / Hayfa Wahby 7. Ana Mish Illik / Aks'ser 8. Omar Sharif / Yuri Mrakkadi 9. Soutek / Tamer Hosny 10. El-Dameer el-Araby / Various Artists 11. Madad / Mohammad Mounir なんだ、またハイファかよ!などと突っ込まないで下さい..

アラブはみな兄弟 [音楽]

前エントリの続き。「アラブの良心」だ。

歌詞を全部訳すのはさすがに大変なので、つまみ食い的に紹介するにとどめる。とりあえずアラビア語の分かる方は、こっちを見て確認されたい。アラビア語はよく分からないけど発音をまねしてみたいという方は、ローマ字転写を見てもらえればOK。ちなみにこのサイトからMP3ファイルなどもダウンロードできる。

まず、サビの部分はみな同じで、こんなことを歌っている。
maatet 2olub en-nas maatet bena en-na5wa
yemkin nesina fi youm en el 3arb e5wa
ماتت قلوب الناس ماتت بينا النخوة
يمكن نسينا في يوم إن العرب إخوة
人々の心は死んでしまった 私たちの誇りは死んでしまった
きっといつの間にか私たちは忘れてしまったのだ アラブは兄弟だと言うことを
30人の歌手が繰り返し、このフレーズを歌っていることになる。けっこう自省的というか自虐的な文句だと思う。

それがラスト、ちびっ子歌手モーメンMo'menのソロから、こんなフレーズになる。
sa7y 2olub en-nas sa7y beha en-na5wa
esro5 bi kol e7sas en el 3arb e5wa
صحي قلوب الناس صحي بها النخوة
اصرخ بكل احساس إن العرب إخوة
目覚めよ人々の心 目覚めよそこにある誇り
すべての感覚で叫ぼう アラブは兄弟だと
なるほど、ここまでセットにして初めて完結するメッセージなわけだ。基本的には「アラブはみな兄弟」ということがメインテーマということだろう。とりあえずこのサビとラストのフレーズを暗記して、空で歌えるようになるのが真のアラブポップスファンということになるだろう。ヤッラ!

(ところでいつも悩むんですが、e7sasإحساسってどう訳せばはまるんでしょう?感覚?感じ方?全身全霊?)

でもって、この大きなテーマをマスターした後で、それぞれの歌手が何を歌っているのかを見てみると、実に面白いのだ。続く。

10年後のアラブの夢 [音楽]

某SNSのアラブポップス・コミュニティでご教示いただきました。

1998年の「アラブの夢」から10年。再びアラブ世界のポップスターたちが集結し、アラブの団結を訴える歌を発表した。その名も「アラブの良心」!

まずはこのYouTube画像を見てもらいたい。といってもこのビデオ、40分以上もあるので、全部見通すのも一苦労だ。5分割されているので、立て続けに見るべし。



「100人のアラブスター」というふれこみだが、ソロパートがあるのは33人。(神の美名の約数だが、何か意味があるのだろうか?)

さあこの33人のスターたち、最後のちびっこ歌手のソロをのぞけば、それぞれ2人ずつ組になってデュエットを繰り広げている。以下に、ポップス・フリーク的観点からこの16組の壮絶バトルを見てみたい。

とは言ったものの、初っ端にナシードを歌っている①ワディーウ・アッサフィーと②ムハンマド・アルアザビーという2人のベテランのことはよく分からないので飛ばす。

ビデオで言うと6分22秒あたりから伴奏が始まり本編となるが、そこからトップバッター、③ラティーファLatifa(チュニジア)が登場する。一昨年のレバノン戦争の時にはイスラエル批判のキャンペーンの先頭に立った彼女はこのポジションがふさわしかろう。新作で見せたフェイルーズばりの癒しボイスは影を潜め、本来の伸びやかな高音が帰ってきた。対するはエジプトのベテラン④ハーニー・シャーキルHani Shakir。日本で言う五木ひろしっぽい安定感で、出だしと締めの両方をラティーファに譲りつつも、守りに徹する感じの危なげない歌唱だ。

Part2に移ると、早速⑤ナンシー・アジュラムNancy Ajram(レバノン)が登場。例によって甘あまのアイドルボイスだ。この舌足らずなところがいい!と思える人は立派なアラブポップスフリークだ。そして迎え撃つはライの帝王⑥シェブ・ハレドCheb Khaled(アルジェリア)。この人の声はもはや伝統楽器だ。一声だけで空気が変わるし、フェイクの仕方が誰よりもかっこいい。おそらく今回のメンツで国際的知名度が最も高いのはこの人だろう。それが当代きってのアイドル、ナンシーとのデュエット!至福の1分45秒間だ。

興奮醒めやらぬまま⑦シーリーンSherine(エジプト)登場。ナンシーの直後にシーリーンとは、トロのお口直しに牛タンを食べるようなものだが、いつも通りのハスキーボイスに魅了される。タンクトップといういでたちの飾らないところも良い。対する⑧サービル・ルバーイーSabir Ruba`i(チュニジア)は端正な歌唱。髪の毛はなくともイケメンはイケメンというところを見せつけてくれる。

次に⑨リダー・アルアブドゥッラーRida al-Abdallah(イラク)の信じがたい高音だ。以前彼の曲を聴いたときには「カーゼムそっくり」と思ったものだが、全然別物になっている。サビの部分が若干他の人と発音が違うような気がするのだが、イラク訛だろうか。対するは管理人一押しのエジプトの新人⑩アーマール・マーヘルAmal Maher。おそらく今回の最年少だろう(最後のちびっ子除く)。10年前のディヤナ・ハッダードに相当するポジションだと思うがどうだろう。声量もあり、凛とした歌唱は正統派の貫禄が漂う。

⑪ハーレド・サリームKhaled Salim(エジプト)は、いつもながらのメロウな歌声。ただ本音を言えば、この人の代わりにターミル・ホスニーに入ってほしかった。⑫アハラームAhlam(バハレーン)も貫禄たっぷりにねっとりとしたコブシを聴かせる。

いきなり洋楽的なコブシで割り込んでくるのが⑬ディヤナ・カルズーンDiana Karzoun。この人、ヨルダン人だったのか。⑭アブドゥッラー・アルルワイシド`Abdallah al-Rwaished(クウェート)の伝統的ないでたちとは好対照。しかしルワイシド、サビの部分の声、高!

ここからPart3。褐色の⑮ワアドWaad(サウジ)も意外と西洋的な発声をしている気がする。対する鼻声の⑯イハーブ・タウフィークIhab Tawfiq(エジプト)が妙に押さえたトーンなのが違和感。フェイクもしまくっている。

うわ、⑰ムスタファ・マフフーズMustafa Mahfuzって誰だ?すごい音域だけど。知らない。⑱アマル・ヒジャージーAmal Hijazi(レバノン)は嘘っぽい金髪が玉に瑕だが歌はうまい。それにしても⑰番は誰だ?

⑲ワーイル・ジャッサールWael Jassar(レバノン)は最近人気の男性歌手だがイーワーンと見分けがつかないな。⑳アマニーヤ?Amaniyaに至ってはさっぱりわからん。

(21)アーミル・ハサン`Amer Hasanも知らない人。おそらくは大物シリア人歌手(22)アサーラAsala姐さんの引き立て役だろう。とはいえ僕は実を言うとアサーラの野太い声が好きなので、このあたりでアサーラ節が聴けるのはとても旨いと思う。中だるみしなくて。

(23)シェブ・ジーラーニーCheb Jilaniも最近よく聞く名前だが、アルジェリア人なのだろうか。マシュリクを拠点にやっている人だが。ナンシーはナンシーでも(24)ナンシー・ザアブラーウィーNancy Zaablawy(レバノン)だ。

出た!イラクのイケメン(25)マージド・アルムハンデスMajid al-Muhandesだ!目が怖い!この人もサビがなまっている気がする。いや、むしろ、他の人がエジプト方言なのを、イラク人だけが訛らずに歌っているのか。(26)アミナAminaって誰?

(27)ルトフィー・ブシュナークLutfi Bushnaq(チュニジア)って、あのウード弾きの人か。日本にもきたことがある。へー、あの人こういうのも歌ったりするんだなあ。で、(28)ヤーラYara(レバノン)だ。この2年くらいで一躍人気者になった彼女もいい仕事をしている。実は彼女のパートは歌詞が良くて、「スンナもシーアも同じレバノン人」みたいなことを歌っている。

(29)アムル・アブドゥッラート`Amr `abd al-Latは知らない人。(30)ナワールNawal(クウェイト)は大物なので、その引き立て役か。ナワールもなんだかサビの部分の訛が違うな。これでサビの部分、エジプト方言で歌ってないのは二人のイラク人とクウェイト人一人、ということになる。

(31)ヌール・ムハンナーNour Muhannaという名前を聞くと、シリアのベドウィンの出身なのかと思ってしまうが、どうなんだろう?前にナンシーと一緒にエジプトの歌謡賞を受賞したというニュースを見たことがある、伝統的な歌い手のようだ。(32)ファーティン・ヒラールベクFaten Hilal Bakってこれまた変な名字だが、知らない人。ムハンナーが最後に「アッラーフ・アクバル!」と締めくくっているのだが、なんでこんな所でアザーンを唱えているのかとやや不思議な思い。

...以上、16組バトルのレビューを試みたが、知らない歌手はまだまだ多い。名前は知ってても、湾岸の歌手は解説できるほどは知らないなあ。書いてるうちにだんだん失速してくるのを痛感した。

しかし、失速しているのはそもそものラインナップが竜頭蛇尾というか、初めのうちにナンシーもシーリーンも使い切ってしまっているので、後ろにはあんまりスターが残っていない、みたいな状態になっているせいだと思う。まあ40分もある曲だから、初めのうちだけ一生懸命聴いて、あとはやめちゃうと言うことも想定しているんだろうか。

でもってこの歌の最後の部分は、ソロをとるには至らないその他の歌手たちが続々と出てくる。全部数えちゃいないが、こういう人たちを全部足して、「100人のスターたち」ということになるんだろう。国別で5~6人組になっているのが面白いのだが、意外と「シリアのスターたち」とカテゴライズされている歌手が多いのに驚く。ソロをとれないのはアラブ全体での知名度が低いからだと思うが、確かにシリア出身の歌手でアサーラ以外にぴんと来る人はいない。しかし実力のある歌手は決して少なくはないのだろうと思われる。

そして最後に演説をぶっておいしいところを持っていく、プロデューサのアフマド・イルヤーン。前奏部分にも出てきてなにやら演説をしてるのだが、いったい何者なんだこいつわ!?という疑問ばかりが残ってしまう読後感だ。

というわけで次は歌詞の説明いきます。本当か?

際限無しのpodcast [音楽]

d4c67fd4.jpg最近凝っているアラビア語関連podcastの話題。

今は音だけじゃなくて映像も配信するビデオ・ポッドキャストなんてのもあるようだ。それで注目したいのはこれ。

Bila Hodood

ご存知、カタルの衛星放送局アルジャジーラの人気インタビュー番組だ。1時間弱のこの番組が、くだんのビデオポッドキャストとして毎週配信されている。なんと太っ腹なことか!

...で、登録の仕方は、iTunesからal Jazeeraで検索すれば、いくつか見つかるので、そちらからやるのが簡単だろう。

で、旨いことBila Hodoodを登録できた暁には、バックナンバーをさかのぼって2008年1月10日の番組をダウンロードしてもらいたい。なんとあのイラク人ウード奏者ナシール・シャンマのインタビューがあるのだ。後半はほとんど彼がウードを弾き倒しているので、アラビア語なんてわからなくても十分に楽しめること請け合い。

でもって今発見したのだが、その回の対話をトランスクリプトしてあるのがこのページ。これって全文だろうか。これは使える。

『アラブ・ミュージック』発売! [仕事]

709a1364.jpgいよいよ発売です!

手元に届くのが楽しみです。
詳しくはまた後日。

*****

といわけで手元に届いた本書を読んでいるところ。

解説すると、この本は2年前の2006年、国際交流基金で開かれた連続セミナー「中東理解講座 アラブ・ミュージック」が元になっていて、このとき講師をやった10人の文章を集めたもの。扱う内容は古典から現代まで多岐にわたる。なんとも豪華な執筆陣で、そんな中に僕の名前なんかが混じっているのは今考えてもおかしい感じがするくらいだ。

このセミナーが開講していたときには、僕も自分以外の方の回は2,3回しか見に行けなかった。講師は他の人の回もタダでみられるという特権があったのだから、もっとどん欲に聴講に行っておけばよかったのだが。今こうしてこの本を頭からじっくり読んでいると、つくづく勿体ないことをしたと思ってしまう。松田先生のあの古典の解説を音入りで聴けるなんてまたとない機会だったし、石田さんの回では臨場感あるルポをきれいな写真と音楽付きで楽しめたわけだ。(とりあえずここまで読んだ)

自分の回はといえば、例によってビデオクリップという「飛び道具」に頼り切った回になってしまっていたと思う。テンションあげて講座に望んだつもりだが、僕のしゃべりは拙いので、どれだけおもしろさが伝えられたか。まあ、僕はそもそも喋りよりは文章で勝負するタイプの人なので(笑)、この本をごらんになってもらえればそれで十分、かもしれない。その代わりビデオクリップのおもしろさは伝えにくくなるけど。

あと反省はといえば、ディスクガイド。僕が紹介しているやつは選曲が微妙に古いです。でも、自分にとって多少なりとも思い入れのあるアルバムを選んでこうなったわけなので、どうかご勘弁を。

もうじきアマゾンなどでも手にはいるでしょう。それまではこちらをご覧ください。

シリアの親切なpodcast [音楽]

最近見つけた、アラビア語レッスンのpodcast。

The Arabic PodClass

現在15課まで頒布されているが、残念ながら最近2ヶ月は更新がストップしている様子。作っているのはシリアはダマ大の学生さん。声だけ聞くと女性のようだが、れっきとした男性だ(ムハンマドさん!)。

英語でアラビア語文法を解説する内容だが、15課ではやっと動詞文と名詞文のことを説明している。これを聞いてアラビア語基本文法がマスターできるかというと、ちょっとおぼつかない。とはいえ、訛のないきれいなフスハーの発音が聞けるし、素人臭いながらも歌やトークのコーナーなど工夫を凝らしており、まあ今後に期待したい。

で、このpodclassの中で紹介していたサイトがこれ。

Syrian Arabic.com

こっちはこてこてシリア方言の教材。「ムヘーック」などと言っている。podcast対応ではないのだが、MP3ファイルがダウンロードできるし、pdfでしっかりしたテキストもある。ちょっと聞いてみたがこっちはプロっぽい丁寧な作り。これだけ揃ってタダとは痛み入る。まったくもってシリア人、よっ、太っ腹!

踊るイベント告知 [仕事]

20f7ed93.jpg今回もアラブポップスのことを語らせてもらうのですが、ゲストはなんとピーター・バラカン氏!もう抜き差しならない事態になってしまいました。
第12回中東カフェ「踊るアラブ人」
トーク: 中町信孝
ゲスト: ピーター・バラカン
日時:2008年2月1日(金) 18:30~21:00 (開場18:00)
会場:キューバン・カフェ @汐留
Arabポップスの最前線
アラブポップスの伝道師、中町信孝さんがアラブの若者に今一番人気の音楽シーンを音と映像で紹介。ゲストには世界の音楽を知るピーター・バラカンさんをお迎えし、国境を越えるアラブポップスのエネルギーと魅力に迫ります。音楽の向こうにアラブの“今”が見えてきます。

詳しくは中東カフェのウェブサイトをご覧下さい。

アメコミとポケモンの間らへん [読書]

368d21fe.gif「イスラーム圏初のヒーローコミック『The 99』」(ソース:R25)という情報を知り合いに教わった。

で、さっそくデジタル版を買ってみた(我ながら早ッ)。

まず最初の巻の前書きで作者が面白いことを書いている。
われわれの主人公たちは、スーパーマンやバットマンみたいな、西洋的なindividual heroesでもなければ、東洋のポケモン型の、チームワークや共有する価値観ですべてを乗り越えていくのでもない。彼らは東洋と西洋との混合体だ。

なるほど、アメコミとジャパニメーションの双方の良いところを取ったアラブ版というところか。

で、まだ初めの数冊しか読んでいないが、いやー、これは面白い。アッバース朝が滅ぶときに、「知恵の館」、ダール・アル=ヒクマの叡智の粋を結集して作った99個の「ヌール・ストーン」が、フレグの征西の際に持ち出され、なんやかんやあってちりぢりになり、現代になりそれぞれの玉の能力を持つヒーローが登場する、というプロローグ。史実に題材を取った壮大なファンタジーを予感させる。 99の玉の能力というのは、ご存じイスラームの神の99の属性に対応していて、「制圧者(ジャッバール、الجبار)」「光(ヌール、النور)」「害を与える物(ダーッル、الضارّ)」なんていうキャラが次々と出てくる。99という数が多いという意見もあるが、水滸伝の108人に比べれば9人少ない。 で、上のR25の記事には「登場するヒーローは..イスラム教徒の男女」とあるが、これは間違いで、どう見てもイスラム教徒ではなさそうなアメリカ人やらポルトガル人やらも能力の持ち主として登場するようだ。要は、「神の美名」というのは単なる方便で、ファンタジーを成り立たしめるベースではあるものの、物語全体が宗教ベースというわけでは全然ない、というのが僕の感想だ。 似た例を挙げるならば、『ジョジョの奇妙な冒険』第三部の「スタンド」。あれは確かそれぞれのキャラがタロットカードの絵柄に相当するスタンド能力を持っている、と言う設定だった。ちょうどそんな感じで「神の美名」が使われているのだ。そう言えば絵柄も何だか似てる気がするし、ひょっとしたら作者は『ジョジョ』を読んでる?とさえ思えてきた。いや、『ジョジョ』もアメコミを意識して描いているだろうから絵柄が似ていても不思議はないのだが。いずれにせよ、何でもかんでもイスラームで説明しようとしてはいかん。 序盤ではまずサウジの少年が「ジャッバール」の力に目覚め、次にアラ首連のシャルジャの女子大生が「ヌール」の力に目覚める。その二人が本作全体の道化回しとも言えるドクター・ラムズィーの引き合わせで出会い、それからアメリカの「ダーッル」の持ち主を探しに行く、という展開。公式サイトの人物紹介を見ると、これからロンドンやらインドネシアなど舞台が広がっていくものと思われる。「地球の運命」と言いながらアメリカのことだけしか描かないハリウッド的世界観に比べれば、何ともワールドワイドだ。 そんなわけで今、この漫画のこの後の展開が気になって仕方がない。『The 99』が乗り越えるべき課題としては、こんなものがあるだろう。 第一に、敵の設定をどうするか。今のところ、中世のアラブ人科学者(マッド・サイエンティスト?)の化身であるラグルという人物が悪役らしいのだが、彼は何を象徴するのか?アメリカとか資本主義が敵、というのでは、お馴染みの文明の衝突的二項対立の裏返しになってしまい、面白くない。プロローグでのモンゴルの扱われ方や、ラグルが香港に拠点を置いていることからすると、日本や中国も含めた東洋人(=非一神教徒)が敵、となるか。それではちょっと悲しい。 第二に、99の属性は確かに盤石な基盤だが、それにのっとってキャラを99かき分けるというのは、至難の業だろう。確かに、そんなに主人公が出てきたら読者は混乱する。しかし、水滸伝では「ハンコ作りの名人」みたいなどうでもよさげな能力の持ち主が、108人の英雄豪傑の1人とカウントされていたりする。本作でも、暗算が得意で飲み会の時に重宝する「ハスィーブ(正しく計算する者)」みたいなキャラで埋め合わせをしても良いだろう。「ラフマーン」と「ラヒーム」を双子の兄弟にするとか。 第三はやっぱり、宗教的権威筋からの横やりが入らないことを祈るばかりだ。 ちなみに上記記事の「イスラーム圏初」という表現も、やや正確さを欠く。このブログで以前取り上げたように、エジプトではすでにアメコミ風漫画が登場している。ただし、それらがその後騒がれていないところを見ると、どうやら定着しなかったのだろう。 ともあれ興味ある方は、上記のオンラインショップで無料版を手に入れられたい。本作の壮大なるプロローグと、ジャッバールが登場する「The Origins」の巻が手に入る。また、これからどんなキャラが登場するのか楽しみでならないという方は、ここで神の99の名前をチェックしておきたい。

別了満地可 [旅行]

66d45f66.JPG連日気温1度Cのモントリオール。泊まった宿と会議場の間には広大な中華街が広がっており、そのためカナダだというのに毎日のように中華料理屋に行った。

驚いたのは、「小肥羊」が出店していたこと。以前、深センでつれ合いの友人に連れて行ってもらったことがあるが、まさかこんなところにまで進出しているとは思わなかった。ちなみに今は日本にも何点か出店しているらしい。

その他、粥麺家、茶餐丁など香港食の店が多く、とても幸せな気分になれた。もちろん、CD、dvdを売っている店もあり、香港ファンには飽きることがない町だ。土産に「カンフー麻雀2」のDVDを購入。「カンフーハッスル」の大家夫妻役の2人が出演するおバカ映画だが、冒頭にチャングムのパロディーなどがあり、東北アジアの大衆文化を論じるには必見の一本だ。

さて肝心の学会の方だが、北米の学界の雰囲気に触れることができたのは大きな収穫。普段論文で読んでいるような研究者たちが、実際に丁々発止と議論を戦わせるのを目の当たりにできたのはかなり興奮した。しかし、彼らがどういう議論を好み、どういう研究を好まないかという傾向も何となく見えてきた。まあ、英語で発表したり論文を書いたりする際には、ある程度彼らの気に入りそうな議論をすることは必要だろうが、かといって彼らの好みだけが絶対的な基準でもないのだということにも注意したい。中東研究者はヨーロッパにだって中東にだっているのだ。もちろん日本にもいる。それぞれが異なる好みを持っているのだ。

今回の学会を見て、学会発表以上に興味深かったのが、フィルムフェスティバルだ。「ヤコービエン・ビルディング」はやはり時間の関係上見ることはできなかったが(長すぎるのだ!)、1時間程度のドキュメンタリー映画を見ることはできた。Me & the Mosqueと言う作品で、北米在住のムスリマの監督が、モスク内での男女の仕切りをなす「パーティション」の存在に異議申し立てをするという内容。意外と面白い。こういう短編をいくつかまとめて上映する機会があれば、日本でもお客さんが入るんじゃないかと思った。たとえば、日本中東学会なんかでやってもらえると面白そう。ちなみに上記タイトルをyoutubeで検索してみると、本編内容がすでにアップされていたりする。おそらく非正規版だろうからリンクは貼らないが。

それから、空いた時間にMcGill大学のイスラム研究所図書館を見学。アポ無しで突入したのだが、何の手続きもいらずフリーパス。学会開催中の特別措置だったのかも知れないが(館内には「MESA会員の皆さんようこそ」とう張り紙があった)、まあ何とも度量の広いことだ。探してた本を一冊丸ごとコピーする。

モンレアル行き [旅行]

d72833b1.jpg明日から学会のため、しばらくカナダに行ってきます。初めての新大陸。

北米の中東研究者がわんさと始まる学会で、相当な規模だ。フィルム・フェスティバルまでやるらしい。豪華。ラインナップの中には「ヤコービエン・ビルディング」なんてタイトルも見つかる。せっかくだからまた観ておくか。タダだし。日本の中東学会もこれくらいやってくれるとうれしいのだが。

しかし、モントリオールで中東の映画といえば、2005年のフィルムフェスでグランプリにノミネートされた「Dunia」だろうに。あー町をふらふら歩いてたら映画館で上映してた、なんてことにならんだろうか。

日本風のマリア [音楽]

ba1adde2.jpg最近見付けたアラブポップスの試聴サイトFarfesh。基本的にはストリーミングだが、Quick Time Proを持っていればmp3ファイルをダウンロードできる。

このサイトで、今年の2月にエジプトに行ったときに発売前で買い損ねていた、マリアの新譜をチェックした。タイトル曲のWerge3t Taniと、Stopという曲については、すでにYouTubeでビデオクリップが出回っている。

プロデューサのジャド・シュエイリーが企画会議(?)をしているという設定のビデオクリップで、上記2つの曲がカップリングされている。上のCDのジャケット写真を見ても分かるとおり、今回のマリアはビョーク風..じゃなくって「日本風」ファッションらしいのだが。まああちらの人らの東洋観がうかがえて楽しいビデオではある。

ところでこのアルバムにはOurestounという不思議な曲が1つ入っていた。明らかにアラビア語ではなさそうな曲名だなあ、と思いつつ聞いてみると、どうやらアルメニア語らしい。たぶん2Ուրես դուն(ウレス・トゥン)で、「あなたはどこにいるの?」というような意味か。そもそもマリア嬢はアルメニア系。それほど多くはないがレバノンやシリアにはアルメニア系住民は結構いる。新たな市場を開拓するつもりなのか。曲調は何となくギリシアっぽかったりする。

早稲田大学でのイベント [仕事]

来たる11月8日、所属する大学で報告会を行うことになりました。若手研究者の研究報告を行うイベントです。所属先とはいえ、公式サイトで今までのラインナップを見る限り、今回の発表、「アウェイ」という感じがします。心ある方、応援に来て下さい。参加資格は問いませんし、入場料はただです。

発表内容・詳細は、下記案内文中のPDFファイルをご覧下さい。
第3回 次世代アジアフォーラム

タイトル 「ポピュラー音楽に見る現代アラブの帰属意識
――民族・国家・イスラーム」
発表者 中町 信孝 早稲田大学アジア研究機構アジア研究所助手
コメンテーター 小島 宏 早稲田大学社会科学総合学術院教授
日時 2007年11月8日(木)17:00~18:30
場所 アジア研究機構会議室
(西早稲田キャンパス9号館9階917号室)
使用言語 日本語
申し込み お名前、ご所属、「参加希望」と明記し11月7日までに下記のメールアドレスまでご連絡下さい。
asianstudies@list.waseda.jp
資料 概要・報告要旨(PDFファイル 2.11MB)
主催 早稲田大学アジア研究機構

英愛探訪記6:チェスター・ビーティー [旅行]

1b7bcfee.JPGニューヨーク出身の鉱山王が、世界中の古書を買いあさり、それらをみんな隠居地ダブリンに寄付してできたという、チェスター・ビーティー図書館。個人で集めたにしては質も量も驚くべき水準を誇っている。どんな経路で集めたのか、中世アラビア語の写本も有名な作家の直筆本などがちらほらあり、その道の人には見過ごせない。

場所はダブリン城遺跡の中、ダブリン市庁舎の隣にあるのだが、北岸から歩いて来たら思いのほか道がややこしくて、たどり着くのに難儀した。この町、中世風のごてごてした建物が溢れている。

chester城塞内の芝生広場に面した、風見鶏が立っている建物がチェスター・ビーティー図書館。入場料は無し。受付で「Admission Officeはどこですか?」と尋ねると、まごまごされてしまったが、研究目的で来た旨を告げ、あらかじめ用意した登録用紙(これこれ)を見せると「二階の閲覧室へ行って下さい」と案内される。

閲覧室ではメールのやり取りをした司書の人がいて、彼女に、サインをした登録用紙やらパスポートやら大学院の証明書やら一連の書類を渡す。入館証などは特になく、極めてアットホームな雰囲気。読みたい写本はすでにメールで伝えてあったので、きちんと用意されていて、僕が使うべき席までもセッティングされていた。至れり尽くせりだ。ただし、今回読む写本は非常にもろくなっているということで、机の上に大きなクッションが設置されてあった。その上に写本を置いて読めと言うことらしい。

閲覧室は狭いながらもいろいろと工具が揃っている。A.J. Arberryによるアラビア語写本目録全7巻プラス索引もあり、とりあえずチェック。ただし最近数年で購入した新着写本については、目録は未刊行だということで、調べることはできなかった。

この図書館、使い勝手はいいのだが、注意すべきは閲覧室の開館時間が短いこと。10時から17時までとあるが、実際には16時半には「写本を片づけるから」とか言われて追い出されてしまう。昼休みも1時間15分きっちり閉まる。土曜日は開いてない。なかなか効率的に使えないのが難点だ。

それにしてもすごいのは、チェスター・ビーティー卿の守備範囲の広さ。彼のコレクションはアラブ・中東関連に留まらず、インドや東アジアまで覆っている。閲覧室でたまたま知り合った日本人研究者の人によれば、ビーティー卿は大正時代に来日しており、おそらく神保町の一誠堂あたりを通じて、良い本をごっそりと買っていったそうだ。その中には、10点くらいしかない絵巻物の1点があったりして、日本の古典文学者にとってもマストゴーな研究機関なのだそうだ。僕はそれ以前に、こんな最果ての地(失礼!)で日本文学研究者と出会えるとは思わなかったのだが、それはあちらこそそう思われたことだろう。

限られた調査期間ではあったが、めぼしいものを一通り見せてもらい、あとは帰国後にコピー依頼をすることにした。

英愛探訪記5:ダブリン [旅行]

084cb14f.JPGさてダブリン。

さすがにロンドンから日帰りで通うわけにはいかない。ネットでRyan Airのサイトにアクセスし、ロンドン・ダブリンの往復航空券を予約。たぶんこれがロンドン・ダブリン間の最安交通手段だろう。バスと船、という手もあるかも知れないが、時間がかかりすぎる。当日はヴィクトリア駅から郊外のガトウィック空港に向かい、RyanAirからメールで知らされた予約番号と引き替えに搭乗券発行、待ち時間ほとんど無しでそのままダブリンへと、大変スムーズ。ダブリン空港の検問で滞在目的などいろいろ聞かれたのは驚いた。EU内なのでハンコは省略かと思いきや、ばっちり押された。

hao空港からはバスで30分ほどで市街地に。町並みがロンドンと似ているが、もっとごてごてと勇ましい、中世っぽい香りの残る町だ。リフィー川の北岸に宿を取ったが、あたりは中華料理屋が多く、アジア系住民もちらほら見かける。ダブリンの中華街か?

そう言えばたまたま入ったフィッシュ・アンド・チップスの店では、英語の通じないウェイトレスが働いていたが、あの人なんかは見た感じ東欧の人なんじゃないかと思った。町でもたまにポーランド語の看板を見かけたし。

偶然付いた日が、アイルランドの国技「ハーリング」の決勝戦の日に当たり、街中ひいきチームのユニフォームを着た老若男女であふれかえっていた。ハーリングというのは初めて聞いたが、ホッケーのスティックを持ってラグビーゴールにボールを入れるゲーム。ただしゴールの下半分にはサッカーゴールのようなネットが張ってある。一度見ただけではよくわからん謎のスポーツだ。『大麦を揺らす風』の冒頭シーンで主人公たちがやっていた、とは、つれ合いの指摘。

続く。

英愛探訪記4:イグアノドン [旅行]

91b5ca2f.JPGオクスフォード。子供連れでにぎわう自然史博物館は、イグアノドンの化石が展示されていることで有名。調べものの合間に足を伸ばしてみた。






iguano1最初にイグアノドンの化石を発見したのはアマチュアの化石マニアだったそうで、出てきた巨大な爬虫類の骨をイグアナみたいなものだと勝手に解釈し、イグアナの大型判みたいな復元図を描いた。なぜだか鼻の頭に円錐形の角を生やした巨大な珍獣「イグアノドン」は、当時のイギリス社会でたいそう流行したみたいで、新聞の風刺漫画には愛嬌のある顔をした巨大イグアナが題材にさかんに取り上げられたらしい。イグアナを漫画に書いて何を風刺していたのか知らないが、日本のツチノコ・ブームみたいな感覚だろうか。

iguano2しかし、オクスフォード大学のさる偉い学者が、この爬虫類が二足歩行をしていたことを突き止め、新しい復元図を作成。鼻の頭の尖った角は、実は角ではなく、前足の親指の爪だったことも明らかになる。これが世に言う恐竜の発見である。この発見をもって、太古の昔、地球は二足歩行をする巨大な爬虫類によって支配されていたということが明らかになったのだ。


iguano4ただし、この「二足歩行」というのも最近は見直しがなされ、歩行の際に前足も少しは使ったんじゃないか、と言うトレンドになりつつあるという。昔図鑑で見たイグアノドンはぴしっと直立していたと思うが、オクスフォードの骨格見本やパネルは、心なしか前傾気味だった。

iguano3私事になるが、イグアノドンの話をすると、福井に住んでいた小学2年生の頃を思い出す。当時の僕は恐竜少年で、いつも恐竜のことばっかり考えていた。ちょうどその年は冬休みに「五六豪雪」というやつに見舞われ、家から一歩も出られなかったので、暇を持て余した僕は子供用の恐竜図鑑から気に入った恐竜の絵や、分類・体長等のデータを手製のカードに書き抜いて遊んでいた。手製のカードというのは、当時父が会社のコピー機で大量に作ってくれたB6版くらいの紙で、そんなのを毎日描いていたら結構な分量のファイルになったような記憶がある。あれ、引っ越しの時に全部捨てちゃっただろうか。

で、その頃の僕の夢は、いつか大阪と東京の自然史博物館に行って、本物の恐竜の化石を見ることだった。大阪の自然史博物館は、5年生くらいの時に大阪城と一緒に親に連れて行ってもらったのだが、東京は田舎で少年時代を過ごした僕にとってはなかなかに遠くて、結局大学に入ってからようやく見に行けた。もちろん、僕の持っていた恐竜図鑑にはアメリカやイギリスの恐竜の本場の博物館の写真もいっぱい紹介されていたのだが、子供の想像力ではそんな外国にまで自分がいける日が来るとは、とうてい思えなかったのだ。しかし、30代も半ばになり、イグアノドンの本物を見ることができた。死ぬまでにニューヨークに行って、本物のティラノサウルスを見に行きたいものである。

英愛探訪記3:ボドリアン [旅行]

4d068ac5.JPGオクスフォードへは、ロンドンのパディントン駅から快速電車で50分ほど。十分日帰りできる距離である。「快速」と書いたが電車や時刻表にはExpressなどという表示は無いので、くれぐれも各駅停車と間違わないようにしたい。上記の倍の時間をかけて田園風景を眺める「イングランド車窓の旅」になってしまうからだ。



牛津さてオクスフォードは中世の町並みがそのまま残る風光明媚な場所。イギリスに時代劇があれば、ここでは絶好の撮影ポイントになりそう。ついつい太秦の映画村を連想してしまう。観光客も多いし。

カレッジの古い建物がそのまま観光名所として開かれているので、色々と見物していきたいのだが、とりあえず調査地であるボドリアン図書館へ急ぐ。ツアーの訪れる「旧」ボドリアン図書館の入り口右手、Addmission Officeをまず訪ねる。

旧館ここで利用証の手続きとなるが、今回自分のミスから大変なことになりかけたので、恥を忍んでその失敗談を記しておく。

アドミッション・オフィスでは、事前にネットで送られてきた申請書(このpdfファイル参照)をプリントアウトして埋めたものと、大学院の英文修了証明書、それからパスポートを係の人に手渡す。しかし!申請書に目を通す係の人の表情が険しい。どうやら不備があるようだ。今回は写本の現物を見る調査なので、あらかじめその旨をメールで伝えてあったのだが、写本現物を見るにはボドリアン図書館では、大学教授などしかるべき人からの推薦書が必要とのこと。推薦書と言っても、先に送られてきた申請書の右半分が推薦書になっており、必要箇所にサインや肩書きを埋めるだけでいいのだった。そこで日本にいるうちに指導教官(職場のボス)からサインを頂いていたのだが、係の人が言うには、サインが必要な2箇所のうち1箇所にサインがない、だから写本を見せる許可を与えるわけにはいかない、ということだった。確かに、改めて自分で申請書を見てみたら、ぽっかりと空欄になっている箇所がある。係員曰く、急いで日本に連絡を取ってきちんとした書類をファックスしてもらうか、オクスフォードに在籍している新しい推薦者を捜せ、とのこと。そんなの無理だよ~!しかし、申請書の作りもずいぶん紛らわしいじゃないか!と言いたいところをぐっと我慢。感情にまかせて主張しても、苦手な英語ではうまく伝わらないだろうし、第一そういうアピールはこの国では決して良い方向にはつながらない様な気がしたのだ。だってここは紳士の国。

とりあえず冷静を装い、内心うわー、どうしよう!?と慌てながらも、係の人には東洋部門担当者と連絡を取るから待て、と温かい申し出をいただき、不安ながらもそのまま事務所内で粘らせてもらう。待つこと5,6分、東洋部門の人ではなく、事務所の上役らしき人が現れる。係の人が事情を説明する。すると上役らしき女史はにっこり、「今度ボドリアン図書館に来たときに、改めて完全な申請書を出して下さい。今回は特別に写本閲覧を許可します」とのこと。また、「気にしないで下さい。こういうケースは良くあることなのです。我々の申請書がよくないのです」とまで言って頂く。

許可が出た所で、そのまま登録手続きに移る。その場で利用証の写真撮影。1週間利用の登録料5ポンドを払い、そして「宣誓文」を読みあげて、利用証交付と相成る。「宣誓文」については事前に聞いていたし、英語で何か読みあげさせられるものだと思っていたのだが、事務室には100カ国語以上で宣誓文を翻訳してある小さなファイルが常備されていた。当然僕は日本語で読みあげることになったのだが、はて、こんなの読んだ所で誰が理解するんだろう?と疑問に思いつつも、宣誓とは自分の良心との対話であったかと思いいたる。なんて。ひととおり手続きが終わり、係の人に「次は必ず正しい書類を持ってきます」と言うと、あっさり軽いジョークとして取られて愛想笑いされる。事務所を後にする。

新館東洋部門の閲覧室は、観光ルートになっているボドリアンの通りを隔てた北向かい、新館の中にある。荷物を預けて閲覧室へ行くと、あらかじめメールで伝えてあった必要な写本がすでに用意されている。すばらしい手際の良さ。もちろん、追加で写本を出してもらうのも可能。出てきた写本はいずれも帙に収められており、さすがに保存状態がよい。

ボドリアンのアラビア語写本カタログを見せてもらったが、18世紀末に刊行された超大型図書が2冊。すべてラテン語で書かれているので、はじめは出版年すら分からないほどだった!(MDCCXX...というやつ)おそらく他の機関ではなかなかお目にかかれなさそうな代物なので、よーくブラウジングしておく。それにしても、このカタログをまとめた18世紀の先達は、21世紀になって東洋から僕のような人間がこのカタログを読みに来ることを想像しただろうか?いや、そもそも、おそらく当時のヨーロッパにあって最高のアラビア語の知識を持っていたであろう彼らは、同時代の誰かに向かって知識を公表することに、どういう意味を見いだしていたんだろうか?同時代人の中にはほとんど誰も彼の知識に付いていけるような人はいなかっただろうに。たとえ誰にも通じなくても、目の前にある事柄をひたすら書き残しておく、黎明期のオリエンタリストが持っていた知の征服欲とでもいうものに、身の毛がよだつ思いがした。

ここで、恐ろしく些末なことだがメモ。ボドリアンの東洋部門で写本の配架番号に使われているMarshという略号とMarshallという略号、この2つは実は全くの別物であることが明らかになった。今回、Marshall 36という写本を頼んだつもりが、Marsh 36という無関係の写本が出てきたりして難儀した。もちろん、ちゃんとMarshallまで書かなかったこちらが悪い。いろんな所にトラップが仕掛けられているようで、ボドリアン、侮れない。

さて、ひととおり調査を終え、写本のコピーを申請する。写本のコピーは刊行本を複写するのとは別の用紙があるのだが、詳しくは閲覧室備え付けの申請書の注意書きを見れば問題ない。料金は一コマあたり0.6ポンドくらい。今回見た写本はいずれもマイクロフィルムにはなっていないため、複写するには一から撮影してマイクロフィルムに訳という作業を経るはずだ。しかしこっちとしてはマイクロよりはデジタルデータとしてCD-Rなどに保存したものをもらいたいので、係の人にその旨聞いてみた。今問い合わせ中。

代金の支払いはキャッシュはもちろん、クレジットカードでも可能。現物は日本に送ってもらうことにした。さて。

東方おまけはオクスフォード駅前の中華料理屋「東方不敗」。屋号と建物とがおそろしくミスマッチだが、ブリジット・リンのような妖しい店主がいたのかも知れない。

英愛探訪記2:オイスターと大英図 [旅行]

3f42873e.JPGまずはロンドン。

渡航前、「ロンドンでは地下鉄に乗るだけで千円かかる」という恐ろしい話をいろんな人から聞かされて恐々としていた。しかし、「オイスターカード」なるものをデポジット3ポンド(750円)払って買えば、空港から市街地まで2ポンドで来れたし、その後も1回1ポンドくらいで済む。横浜市営地下鉄くらいの水準には抑えられると言うことだ。便利だし、1週間くらいの滞在でも十分元は取れるような気がする。ちなみにオイスターカードにお金を補充するのは「top up」というそうだ。

宿代の方も、普通に探せば恐ろしく高く付きそうだったが、今回はつれ合いのお母さんの知人のつてで、比較的安い値段でフラットを借りることが出来た。後でつれ合いに指摘されたのだが、今回泊まっていた辺りは、ニック・ホーンビーの「ハイ・フィデリティ」の主人公が住んでいる設定の地区のほど近くだったらしい。まあそれはともかく。

で、大英図書館だが、閲覧室の利用証は作ったものの、写本の閲覧はできなかった。できなかったというのは、つまりは時間が足りなかったからだ。残念と言えば残念だが、今回の旅の目的はむしろボドリアンやチェスター・ビーティーの方にあったので、大英はまた後日、ということにしたのである。酸っぱいブドウを嘆いている訳ではない。(ちなみに、大英所蔵のアラビア語写本いついてはこれらのカタログ参照)

上の写真はEdgware Roadの八百屋で、看板にアラビア語が書いてある。この辺り、ハラールミートの店などもいくつかあった。そう言えば、サーミー・ユースフはロンドンの出身なんだよなあと思い出す。「アゼリー」と掲げてある雑貨屋などもこの界隈で見かけた。

オクスフォード編に続く。

英愛探訪記1:準備編 [旅行]

この夏2週間ほどかけて、イギリスとアイルランドを巡ってきた。目的は中世アラビア語写本の調査。

訪れたのはロンドンの大英図書館、オクスフォード大のボドリアン図書館、そしてダブリンのチェスター・ビーティー図書館の3箇所。

出発前、まずは情報収集。大英とボ図書館で去年調査を行ったO君から聞いた話では、どちらもあらかじめメールで連絡さえしておけば、手続きには何の不自由もないし、写本の現物も問題なく見せてくれるとのこと。つまりはメール連絡が必須と言うことだろう。

さっそくそれぞれの公式サイト(上掲リンク参照)から関係部局(大英1大英2ボドリアンチェスター)のメールアドレスを調べ、自分が何者で専攻は何で、何が目的かをメールで伝える。すると1週間もしないうちにそれぞれの担当者から返事を頂く。あとの手続きは機関によって違うが、チェスター・ビーティーでは「利用日程の1ヶ月前までにご連絡下さい」という決まりがあるそうで、いずれにせよ早めに連絡しておくに越したことはない。

ともあれあちらの反応をもらったら、日本の所属機関の証明書やら、向こうが指定している申請書やらを準備しておく。

またも東洋のビョーク [音楽]

「~のビョーク」という言い方も相当に手垢のついた表現。いったいそう呼ばれる人が世界に何百人いることだろう。

それはともかく、ロンドン旅行の帰りに立ち寄った香港。2年ぶりだが相変わらずチム仔記の蝦ワンタンメンはおいしかったし、連れ合いの友人におごってもらった西貢の魚料理もうまかった。

ただし、尖沙咀のHMVが移転し、売り場がちょっと狭くなっていたことにショックを受ける。品揃えも心なしかしょぼくなっているような気がした。

正直今回は買い物をする時間はあまりなかったし、中華ポップスの最新動向もここのところ抑えていないので知識もないのだが、それでもジャケ買いしてきた唯一の一枚がこの人。

薩頂頂
アライブ

サー・ティンティンと読むのだろうか。「万物生(alive)」というアルバムが面出しで並んでいた。激しく不思議ちゃんオーラを放っているジャケットに、ついつい手にとってみる。

曲目表を見ると、曲名の後ろに使用言語がいくつか記されている。中国の少数民族出身の歌手だろうか。かなりのマルチリンガルぶりだ。「蔵語(チベット語)」「梵語(サンスクリット語)」「自語」...

なに?「自語」?どこの国の言葉だ?

実はこれ、「自分で作った言語」という意味らしい。あとでiTuneにインポートしてみたら、全曲英語表記されており、「自語」は「self created language」と訳されていた。なんだ、でたらめじゃん!

で、帰国後ネットで探ってみると、彼女は内蒙古人と漢人とのハーフらしい。とするとチベット語が母語、というわけでもなさそう。いわんやサンスクリット語をや。このアルバムのマルチリンガル性は、民族的ルーツ探求というよりは、彼女の個人的な仏教カルチャーへのリスペクトと見るのがよさそうだ。

ともあれ、表題曲「万物生」のビデオクリップはこれ。

もうひとつ、一曲目のクリップも、僧形のダンサーが踊ってたりしてものすごいインパクトなのだが今のところyoutube上で見つけてない。

本来僕は、プリミティヴネスを売り物にするような不思議ちゃん歌手はあまり好きではないのだが、下の動画インタビューを見ると「ディープフォレストやピーガブ、ビョークに影響受けてます」とかさらっと喋っている。中国のみならず、アジア的要素を武器にして世界に売り出そうという野心があるらしい。まあなんて大胆な!ともあれ、ここのところは通勤中に彼女の不思議ボイスでトランスしてます。

(ちなみに、上掲画像のリンクを辿ってアマゾン.co.jpを見てみると、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」としてレコメンドされているCDに注目!このサー・ディンディンとナンシー・アジュラム、どういう共通項があるのだろう..)

エジプト人は本を読んでいるか? [読書]

ヤコービエン・ビルディング」の原作者アラー・アル・アスワーニーが、「エジプト人が本を読まなくなったって!?僕の本はこんなに売れてるじゃないか!」と言ったとか言わないとか(出典al-Quds al-Arabiうろ覚え)。

とは言え、現代エジプト人が読書しなくなったという点では多くの人の意見が一致しているようで、今週のアフラーム・ウィークリーではこんな記事が。

エジプト人は本を読んでいるか?

カイロの多くの本屋で書棚がホコリをかぶったままな状態を見るに付け、あるいはここ十年ほどでいくつかの書店が文房具屋に変わっている現状を見るに付け、エジプトの書籍市場は景気がいいようには見えない。


そう言えばカイロの街中いたる所に文房具屋というか謎のグッズを売っているファンシーな店があったけど、あれって昔はみんな本屋だったんだろうか?なんてことが気になってきた。

この記事では、つい最近ダウンタウンにオープンした本屋Al-Baladに代表される「カフェ-ブックストア」について紹介している。若者たちがカプチーノなどをすすりながら、本の背表紙を眺め、あわよくばご購入頂くという商法。すでにザマーレクの書店Diwanではそんなサービスを提供していたが、どうやら同じ経営者らしい。日本でもジュンク堂などが同種のサービスで有名だが、きっとアメリカなどで発明された商法が、世界各国で流行っているのだろう。

しかし、エジプトの場合は老舗書店の常連客になると、店員と長~い挨拶を交わした後、まあまあと椅子を勧められて知らないうちにシャーイが出てきたりする。これってジュンク堂の元祖?と言う気もしないでもないが、しかしこの記事のAl-Baladのお洒落な雰囲気とはほど遠い。エジプトでも、従来の店員と客との濃密なスキンシップを「ウザイ」と感じる人たちが増えているのかも知れない。

さて記事によれば、エジプト出版業界の停滞はひとえに教育の劣化のたまものであり、そしてそれはサダト時代の開放政策に起因するものらしい。具体的に識字率がどう変化したとか、出版部数がどう変わったという数字は示されていないのだが、このことはすでにソースを示して説明するまでもない常識と見なされているのだろうか。

ともあれ、現在カイロにいらっしゃる方は是非ともAl-Baladに行って、ご感想をお聞かせ下さい。アメ大Cilantroの二階だそうです。

どうせやるならターミルなんかでやりたまえ [音楽]

とりあえずはこのビデオを見てもらいたい。

ご存じエジプトのラップユニットMTMの名曲「Ommy Mesafra(おふくろが出かけた)」を、どこぞのエジプトのシャバーブ(若者たち)が勝手にパロディーにした作品だ。パロディーと言っても、ただ単に曲に乗せて口パクをやってるだけで、何が面白いのか分からない、という意見もあろう。エアボーカルとしてはちょっとお粗末な作品だろう。

さすがは「アラブは1つ」と言うべきか、どこのシャバーブも考えることは同じなようで、今度はモロッコはテトアンのシャバーブが同じ曲で同じ様なことをやっているビデオも発見。


ちなみに元曲のビデオクリップは、これである。未見の方は、是非ともリンクを辿ってご覧頂きたい。MTMがそんじょそこいらのシャバーブとはひと味もふた味も違うというのがお分かり頂けるだろう。ってまあ彼らはプロなんだから当たり前か。

で、上の2つの学生ノリなアマチュア・シャバーブの作品を見て、やっぱり比較してしまうのがこれ。知る人ぞ知る、中国の「后舍男孩(バック・ドミトリー・ボーイズ)」。エアボーカル・ブームの火付け人とも言えるグループだ。

うーむ、やはり中国人の方が表情のニュアンスとかを理解しやすいせいだろうか、アラブのシャバーブたちよりも、こっちの方が断然面白い!と思ってしまう。しかしアジア人だということを差し引いたとしても、后舍男孩がパロっているのがしっとりしたバラードなのに対して、アラブのシャバーブたちは最初からダンスミュージックに乗せてダンスしているんだから、後者の方がひねり方が足りないのは事実。「マンマやないか!」と突っ込みの1つも入れたくなる。

シャバーブたちよ、どうせやるんなら、ターミルとかのせつな系バラードをやりたまえ。

アラブポップス歌詞の対訳サイト [音楽]

Arabic Song Lyrics and Translation

偶然発見した上記ブログ、400曲以上のアラブポップスの歌詞を英アラ文対訳で掲載している。ラインナップはアブドゥルハリームやフェイルーズなどの古典から、ナンシーやハイファ、シーリーンやターミルなどの若手まで。カーゼムのフスハー曲もあれば、MTMのラップの歌詞をご丁寧に訳してくれていたりもする。大いにアラビア口語の勉強にもなるし、歌手ごとのバイオグラフィーのコーナーもある。今後も目が離せないサイト。

つづいてアンガームも [音楽]

ナンシーに続き、エジプトの美人歌手アンガームも新譜を出したそうだ。

Elaphより

写真を見るとちょっと目の周りがくたびれてきたような気がしないでもないが、それでもエジプトが誇る美人歌手である。気になってwikipediaで生年などを調べてみたら、「1972年1月19日」とある。72年...またか。

それはともかく、タイトル曲Kol Ma Nearab le Baadのビデオクリップもすでに出回っているのを発見。

なかなかきれいなロケーションですが、これって以前albawaba.comで、「アンガームはモスクの中でビデオ撮影してけしからん」と批判されたと報じられていたあれか!?アンガームは否定してるし曲名も違うので、別なのかも知れないが、どうだろう。やっぱりモスクの中のようにも見えるのだが。下のメイキング映像とも見比べておきたい。

これは流出映像だろうか? あと、たまたま発見したお宝映像。アンガーム14歳の時に、父親である作曲家のムハンマド・スレイマーン氏とデュエットしたと思しきもの。娘を持つ父親なら共感(羨望?)せずにはいられないほどの親ばかぶりを発揮しているが、この頃からアンガームはなんともコブシがころころよく回ること。 ちなみにもう一つ、僕がカイロにいた頃に良くテレビで流れてた、やや古めの楽曲がこれ。アレキの風景にギリシア風旋律が良くマッチしていた。 今回はちょっと動画貼り付けすぎたかな。

子供向けにはエジPOP節 [音楽]

bb002255.jpg話題のナンシー・アジュラムの新譜が出たらしい。例の子供向け曲集である。タイトルは「シャフバト・シャハービート」...ってどういう意味ですか??(「落書きする」みたいな意味?)

Elaphのこの記事によると、まさに本日6月11日発売とのこと。

mixiのアラブポップスコミュニティでは一足早く、そのビデオクリップのYouTube動画が紹介されていた(Reikoさん感謝です)。8分以上と長めだが、3曲まとめてひとつのビデオクリップになっているようだ。


学校の先生に扮したナンシーが子供たちに物語を聞かせるという趣向のクリップ。ハマーダ君やハラーちゃん役の子供たちがとにかくかわいらしい。誰ですか、ナンシーがもっとかわいく映ってないとダメなんじゃ!とか言っている人は。まあ確かに、小さなお友だちにとっては楽しい曲かも知れないが、我々「大きなお友だち」にはちょっと物足りない感がいなめない。

で、大きなお友だちにはこちらのビデオクリップ。前作Ya Tabtab収録曲のElly Kan。ナンシーの大人の魅力が堪能できましょう。


ところでお子様向け「シャフバト..」だが、冒頭の寸劇部分ではナンシーはレバノン方言で喋っているのに、曲が始まると極端なほどのエジプシャン・テイストになってしまうのに注目。歌詞がエジプト方言なのは毎度のことで珍しくはないが、ギター・シンセのバッキングの雰囲気やリズムが、極めてオーソドックスなエジプト風味だ。90年代のムハンマド・フアードの曲なんかを彷彿とさせる。

90年代に一世を風靡した「アル・ジール」が、子供向け歌謡として生き残っているのだろうか。

アラブ人が注目する中国女優 [TV]

ブログを見返してみると、去年の9月からずっと見ている中国武侠ドラマの『神雕侠侶』。近頃ようやくすべて見終わった。やれやれ。

金庸武侠小説きっての純愛物語として知られる『神雕』、我々も当初は主人公2人の恋の行く末を温かく見守るつもりだったのだが、回が進むに連れ、2人のあまりのバカップル(!)ぶりよりは、魅力あふれる悪役たちの姿に目がいくようになった。李莫愁、公孫止、金輪法王...それぞれ最期に見せ場があって、ほろっとさせる演出が憎い(公孫止は最後まで極悪だったが)。

ところが最終回が近づくに連れ、一緒に見ている連れ合いの目がハートに!なんと彼女はいつの間にか「明(ミン)教徒」になっていた。「明教」とは『神雕』の主演、楊過役の黄暁明(ホアン・シャオミン)のファンの総称。ファンは「明教徒」で暁明は「教主」だそうだ。

対抗上、こっちはリウ・イーフェイのファンになるかと思いきや、今僕の心をとらえて放さないのは、この女優さんである。

a3ca60a3.jpg陳紫函(チェン・ズーハン)(「古装劇場」のサイトより)
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まあ写真を見てお分かり頂けるとおり、大変きれいな女優さんだ。しかし、『神雕』の中で演じているのは「郭芙」。金庸小説史上最低最悪女として、武侠ファンの間では蛇蝎のごとく嫌われている登場人物だ。確かに劇中では、これでもかこれでもかと言うくらい楊過をいじめ抜く。いやいじめなんてものでは済まないのだが。

実際の陳紫函は、黄暁明にとっては北京電影学院(国立アイドル養成所)の3年くらい先輩にあたるようだ。劇中では「芙妹」と呼ばれていたが、幕間でもホントに後輩楊過をいびり倒していたんではないかと危惧される。

また暁明は中国初のアイドルとして知られる趙薇(チャオ・ウェイ)と同級生だから、陳紫函は趙薇の先輩にもあたることになる。で、検索してみると、趙薇の元カレ(大富豪)を紫函が取った、というような報道があったりする。さらに、「陳紫函」でグーグルの画像検索をかけてみれば、かなりきわどいセクシー画像がばしばしヒットしたりする。「郭芙」役を演じたことも含め、ずいぶんとダーティーなイメージの女優さんのようだが、「アイドルになり損なった趙薇」かと思えば親しみも湧くというもの(湧くか?)。

じゃあなんで彼女がアイドルになり損なったのかと言えば、それはグラマー過ぎるのがいけなかったのではないか、と僕は推測する。時代劇などに出て清純派を志向したところで、胸にあんなリーサルウエポンを隠していたんでは、必然的にダーティーなイメージに陥ってしまうのである。これは何も中国だけに限ったことではない。長澤まさみがさらしを取りたがらないわけを考えてみるがいい。

それにしても気になるのは、陳紫函の紹介文で、「もっとも行きたい所=エジプト」とある点だ。ああ、是非行ってもらいたい。アラブ人の方はすでに陳紫函に大注目してますから(参照:Elaphの記事、上から5番目の画像)。アラブでは、孫燕姿なんか目じゃないくらい大ブレークするかも知れない。

ヤスミンと足裏鞭打ち [TV]

b31dfa26.jpgエジプトの芸能雑誌『ヌグーム』で、若手女優の美人コンテストを投票で行ったところ、1位にはヤスミン・アブドゥルアズィーズ(←画像)が選ばれたという記事。残念ながら『ヌグーム』の元記事が見つからないのでalbawabaのURLを貼っておこう。

albawaba: Yasmeen Abdel Aziz – best looking female actress

同記事によれば2位以下は、モナ・ザキー、ガーダ・アーディル、ヌール、ハナーン・トルクとマイ・イッズッディーン(ともに5位)と続く。はて、マイって誰だっけ?

ともあれ、ハナーンが一線を退いた後はモナのひとり勝ちかと思われたわけだが、意外や意外、ヤスミンが健闘しているようだ。近々主演映画も撮られるらしい。楽しみな話だ。

それにしても、ヒジャーブ宣言後も5位に入るハナーンの人気の根強さである。何となく気になって、Youtubeで久々に"Hanan Turk"と打ち込んで検索してみたら、彼女が宗教的な集まりで演説するような動画に混じって、なんだか妙なものが。



これ、ハナーンが去年出演したテレビドラマ「ストリート・チルドレン」の1シーンのようだが、説明書きには「ハナーン・トルクが"falaka"を受ける」と書いてある。はて、falakaとは?と思ってアラ英辞書で調べてみたら、アラビア語で元綴りはفلقة、意味は「bastinadoの道具」とある。さらに英和辞典で見ると「足の裏をむち打つこと」だそうだ。たしかに、上の動画でハナーンは足の裏をむち打たれているわけだが。誰ですか、この苦悶の表情がイイ!なんて言う人は!

で、Youtubeのリンク欄を見るとfalakaと題された様々な動画がアップされている。ドラマの1シーンから友達とふざけてファラカしている映像まで。別段面白くも何ともない映像ばかりだが、うーん何だろう、このフェティシズムの香りは。これは知らない世界の入り口なのかも知れない。

ピラミッドに向かって走る孫燕姿 [音楽]

youtube動画の貼り付け練習もかねて、こんなネタを持ってきた。

燕姿(イェンツ)は前から好きな歌手なので、こういう企画は素直にうれしいですね。ロケ地以外、特にエジプトっぽさはないのですが。

世のお父さんは朝寝坊 [TV]

日曜朝のテレビ朝日は子供天国だ。七時半から戦隊もの、ライダーもの、少女アニメと続く。

うちも娘が保育園で、この手の番組の話題を仕入れてくるようになったので、日曜も多少早起きして一緒に見ているのである。

で、戦隊ものとライダーものは、普通に考えて男の子をターゲットにしているだろう。少女向けアニメは当然少女向けである。ここで、なんで男の子が時間的に先で、女の子が後なのかという疑問が生じる。

幼稚園児年代で起床時間のジェンダー差があるとは思えない。だから別に、女の子タイムを先に持ってきてもいいはずである(いや、何も男の子タイムが先だと悪い、というつもりはない)。一体なんでこの順番なんだろう?

で、僕が考えた答えはこれ。ずばり、お父さんとお母さんの起床時間の差を反映しているのだ。戦隊ものにしろライダーものにしろ、最近の傾向としては主人公がイケメンという特徴がある。男の子とそのお母さんが揃って楽しめる番組となっている。

一方の少女アニメはどうかというと、これは女の子向けであると同時に、実はそのお父さんまでもターゲットとされているのだ。これはちょっとネット上の日記や書き込みなどを見てみれば分かるだろう。日朝の少女アニメを楽しみにしているお父さん方が何と多いことか。これは何も、元々オタク属性のあるお父さんに限られた話ではないのである(と思う)。

で、各ご家庭で違いはあろうが、多くの家庭では日曜はお母さんの方が早起きで、お父さんの方が寝坊なのではないだろうか(ちなみに我が家は逆であるが)。だから、早く起きるお母さんと男の子のために、戦隊・ライダーものを先にやり、女の子向けはお父さんが起き出す八時半までお預け、ということになるのである。たぶんテレ朝の番組編成局は、そういう目論見でこの時間設定にしているのだろう。

「なんだ、やっぱりお父さん向け時間だったのか」と安心しつつ、今日も朝からプリキュア5を見る、当ブログ管理人であった。いや、意外と面白いんだって!

ちなみにこれは、プリキュア一作目の香港版オープニング曲。あちらの人気デュオTwinsがコスプレして広東語バージョンを歌っている。「メイシウノ~イ(美少女)!」と、全然気合いが抜けているところがいい。

人種差別主義者は馬鹿だわ。 [読書]

--パパ、もし人種差別主義者が恐がっている人だとすると、外国人を嫌う政党の党首[国民戦線の党首ル・ペン]は、いつも外国人を恐がっているはずでしょ。でも、あの人がTVに出るたびに、恐いのは私の方よ。ジャーナリストを怒鳴りつけたり、脅したり、机を叩いたりするわ。
 そう。でも、メリエムが話しているその党首は、攻撃的な性格で知られた政治家だ。彼の人種差別主義は、暴力的な仕方で示されるんだ。彼は、よく知らない人たちを恐がらせるために、まちがった主張を伝えている。彼は、人々の恐怖感、ときには現実的な恐怖感をうまく利用する。例えば、移民は、フランス人の仕事を奪ったり、生活保護を受けたり、病院で無料の治療を受けたりするためにフランスに来るんだと言っている。これは本当のことじゃない。移民たちは、多くの場合フランス人がやろうとしない仕事をしている。彼らは税金を払い、社会保険の保険金を払っているから、病気になったときには治療を受ける権利がある。もし明日、不幸にもフランスの移民が全員強制退去させられたとすると、この国の経済は崩壊するだろう。(pp.18-20)
--それは、ルペンに投票する人たちみたいなもの?
(中略)でも、たぶんルペンに投票する人すべてが人種差別主義者ではない・・・不思議なんだが・・・さもないとフランスには400万人以上の人種差別主義者がいることになってしまう!多いだろう!彼らはだまされているんだ。さもなければ現実を見たくないんだ。ルペンに投票しておきながら不安を感じたと言っている人もいる。でも彼らは手段をまちがっている。(pp.52-53)
タハール・ベン・ジェルーン著『娘に語る人種差別』
これ以上言いたいことはありません。ベン・ジェルーンの言うとおり!連れ合いが言うには、フランス人はルペンをせいぜい3番目に選んだに過ぎないけど、日本人(東京都民)はまさしく彼を選んでしまったということ。まあ、大統領に選んだ訳じゃないけど。

やっぱり区別付いてないのか [TV]

17a421a0.jpg毎度お馴染みElaphのニュースより。珍しくファッション面の記事に注目。

スターは中国式優雅さを好む

いきなり陳好(ドラマ『天龍八部』の阿紫役)の写真があってびっくりしましたが、古装をする中国女優の写真を並べて、彼女らのファッションの優雅さを讃えているようです。Elaphではたまにこうして中国芸能ネタを持ってくることがあるようだけど、誰か中国芸能ファンの記者でもいるんでしょうか?

しかし記事の最後の方で、彼女らの着ている服のことを「キモノكيمونو」と呼んでしまっています。あちゃー、やっぱり日本も中国も一緒くた。まあ、読者がさっそく間違いに気づいて「キモノは日本だ!訂正しろ!」と批判しているので、みんながみんな一緒くたというわけではないようですが。

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