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12世紀のオトグラフ [仕事]

自筆本マニア研究者を自認する者としてはこの機会を逃す手はないと思い、ちょっくら京都まで足を伸ばして「冷泉家~王朝の和歌守展」を見てきた。

俊成、定家、為家と、12,13世紀の人物たちの自筆本がこんなに残っているという事実にまずは軽く衝撃を受ける。アラビア語写本の場合、その時代のものが数千点規模で残っているというケースはまず考えにくい。(たとえばIbn al-Jawziのオトグラフが何点ある?)和紙の紙質は確かによいのだろうけど、同時代のバグダード紙がそれに劣っていたわけでもあるまい。むしろ薄っぺらい和紙よりは分厚いバグダード紙の方が頑丈なはず。

で気づいたのだけど、写本の残りがよい、ということよりも、冷泉家という家の残りがよい、ということかも。イスラム世界で歴史的実態として12世紀まで遡れる名家なんてあまりないのでは?いや藤原氏は7世紀までいけるか。とするとムハンマド家クラス?

噂に聞く定家の筆跡は、確かに悪筆。親父や息子に比べると、素人目に見ても明らかに「下手」だ。だがそれが後世、書の手本として重宝されたというのはどういうことだろう。ヘタウマさ加減が愛されたのか、真似しやすいと思われたのか。あるいは定家その人のネームバリューゆえなのか。

でまあ、今回展示されている写本はみな「時雨亭叢書」という名前でファクシミリ版が出版されているそうで、webcatで調べたらいろんな大学の図書館に収蔵されていた(うちの大学にはなかったけどどなたか先生が持ってるんじゃないかと思う)。いや別にそれで何か研究する訳じゃないけど、そういうのをぼーっと眺めているだけでなんだかそういう気分に浸れそうだなと思った。贅沢な本。

そういえば、僕などはこういう展示を見てもぼーっと眺めているだけで終わるが、見に来ている人の中には熱心にメモを取ったり、ぶつぶつとつぶやきながら見ていたりする人も多いのに、これまた驚いた。そうか、書かれているのは日本語だし(古語だけど)、しかるべき訓練をカルチャーセンターなんかで受けていさえすれば、別に学者じゃなくても読めるんだよな。「古今集はわかりやすいからええわ」なんて話し合っているご婦人方、熱心に見いるあまりガラスにごつんとおでこをぶつけてしまう紳士、日本史や日本文学の層の厚さはほんとに恐れ入る。(おでこをぶつけるのは習熟度とはあまり関係がないかもしれないが)。

今回は連れ合いとムスメと一緒に見に来たのだが、ムスメ六歳は最初、薄暗い部屋に習字の手本みたいなのがひたすら飾ってある展示室をみてもあまりい興味をそそられない様子だった。というよりは半分見て回らないうちにあからさまに機嫌が悪くなってきた。しかし、虫食い写本をいかに修理するかという展示になると、それなりに興味をもってくれた。「虫」とか「修理」とかいった話には興味を示すんだこのムスメは。あとお土産コーナーは品揃え豊富で、たちまちムスメの機嫌もよくなった。商売っ気たっぷりの冷泉家の姿勢にまたもや恐れ入る。ワクフ監督者たるものこうでなくっちゃ。

死蔵されていた重要写本 [仕事]

ちょっと気になった記事なのではりつけ。

遣唐使・最澄の活躍明らかに 持ち帰った論文の写本確認(asahi.com, 2010/02/19)

「最澄が活動した比叡山は織田信長による焼き打ちにあうなどしたため、中国から持ち帰った資料はわずかしか残っておらず、この論文も伝わっていなかった。」

出た、魔王信長!五輪がらみで最近よく名前を耳にしていたが、こんな所にまで出てくるとは。
貴重な写本を焼き尽くす炎ってこれ、誰か映像化して日本版『薔薇の名前』を作ってくれんかな。などと妄想してみる。

ところで、記事中にある「空海が持ち帰った」という論文とはこれのことかな。

空海が唐から持ち帰った?幻の「三教不斉論」写本を発見(asahi.com, 2010/01/23)

2人とも、同じ論文を筆写して持ち帰ってたんだな。しかもどちらも今の今までその重要性が認められず日本のどこかで死蔵されていたという。最澄や空海レベルでも、こんな未開拓ゾーンが残っていたのか。研究者にとってはこういう発見って、たまらんだろうな。

密文研の研究会関連ページ

映画の中の宗教文化 [仕事]

こんなシンポジウムに参加することになりました。
映画の中の宗教文化
【日時】 平成21年9月20日(日)10時~17時30分
【場所】 國學院大學・学術メディアセンター1階・常磐松ホール


映画で学ぶ現代宗教
このようなシンポに僕みたいな者がお呼びがかかったのは、←この本に何頁か執筆させてもらったのが縁でした。

じゃあなんでこの本に書かせてもらったのかというと、話せば長いことながら、今はなき大塚和夫先生の代役として何か書かないかと、編集の方から連絡を頂いたのがそもそものきっかけでした。「現代宗教」というテーマ設定は明らかに僕の力量を越えているのでちょっと戸惑いましたが、好きな映画のことを思い切り書けるという誘惑が勝り、恥を承知で4、5本レビューさせてもらったわけです。以前から語りたくてうずうずしていたトニー・ガトリフについても、強引に書かせてもらいました。大塚先生にはこのことでいつかお礼を言わねばと思っていたのですが...

ともあれ、いろいろな縁から引っ張ってもらったシンポですので、精一杯準備していこうと思います。

「アラブ映画における宗教と女性」みたいなテーマで、ハナーン・トルクのことを語りまくる...みたいなことをいずれはやってみたいと思うのですが、ちょっとまだ僕の方で準備ができてないので、これはやめにします。シンポの趣旨として、「教材として映画をどのように用いるか」というような実際的な活動の報告が求められていますので、ならば僕が授業で使っているサラディン映画やバイバルス映画の話をするのが本筋でしょうかね。悩み多い夏休みになりそうです。

アラブのメッセージソング【仕事】 [仕事]

イスラーム世界のことばと文化 (世界のことばと文化シリーズ)
このブログでもたびたび話題にしたことのある、アラブポップスとアラブ人の帰属意識の問題について、なんとなく文章にしたものが本に載りました。とりあえず宣伝しときます。
[BOOKデータベースより]
広大・未知のイスラーム世界を言語・文化・宗教・文学の視点から多角的に解明する。新鋭の研究者たちによる新・イスラーム学のすすめ。
1 イスラーム世界への旅
総論―イスラーム世界との出会い
イスラーム世界の旅・旅人・ことば
2 イスラームの言語と文化
イランの生活を彩ることばと文化
古典詩歌と物語から読み解くペルシア世界
メディアのアラビア語
『歴史序説』にみるイブン・ハルドゥーンのアラビア語観
3 イスラームの文化と芸術
現代アラブのメッセージソング―民族・国家・イスラーム
トルコの話しことばと伝統芸能
トルコの美術と書道
4 異文化の中のイスラーム世界
中華とイスラームのはざまで―中国ムスリムの「小経」と「ハン・キターブ」
壁としてのジャウィ、橋としてのジャウィ―東南アジア・ムスリムの社会と言語
アラビア語とスペイン語のはざまで―モリスコたちの言語と文化
現代ウイグル文化の歩み道―中華の波の中にある言語
「東」と「西」の架け橋―グルジア語の世界


アラブ・ミュージック―その深遠なる魅力に迫る
ついでにこちらもリンクしておきます。こっちが概論、上のが特論という位置づけで、両方併せて読んでもらうとわかりやすいと思います。

それにしてもこう並べると、2007年度はこっち系の業績しか上げていないような感じに見えてしまいます。そんなつもりはないんですけどねえ。

それから、『アラブ・ミュージック』が朝日の書評で取り上げられました。評者の小杉先生は控えめに書いていらっしゃいますが、ご本人も相当なアラブポップス・フリークであらせられます。

ラジオ出演 [仕事]

『アラブ・ミュージック』の出版を記念し、とあるFM放送局でのラジオ番組の収録に呼ばれました。場所は半蔵門のTOKYO FM。

「トランス・ワールド・ミュージック・ウェイズ」という番組だが、ワールドミュージックに限らず、毎週いろんなジャンルの音楽を手広く紹介している。放送するのは、FM東京の系列局で、ミュージックバードというCS衛星デジタルの音楽専門チャンネル。くわしくはこちら。あと、この番組自体はFM仙台、FM静岡でもオンエアされるそうです。

この番組では「好きな曲を紹介してもらって良い」とのことだったので、いつも通り、いや、いつもにも増して、エジPOP中心主義で選曲しました。のっけからマリアの「El'ab」で登場するなど、やや頭悪そうなラインナップです。そんな調子で1時間、11曲流してもらいました。

それにしても、プロの仕事の手際の良いこと!いつも授業などで曲を紹介するときは、曲の紹介をしながらも頭の半分ではパソコンのマウスやらDVDのリモコンやらスピーカーの音量つまみやらのことを考えてなければいけないわけですが、今回はそういう意味では、曲を流す手順などについては全く考える必要がなく、喋る内容に集中できました。しかし、だからといって、急にそんなにおもしろいことが喋れるわけでもありませんが。

放送日程は以下のとおり。

5月10日(土)
 5:00~6:00 FM仙台
 28:00~29:00 K-MIX(FM静岡)

5月11日(日)
 10:00~11:00 MUSICBIRD Cross Culture(11-1)

ちなみにかけてもらった曲目はこんな感じ。0. El'ab / Maria 1. Allem Alby / Amr Diab 2. El-Layaly / Nawal el-Zoghby 3. Eeh Da Ba? / Hakim 4. Garh Tani / Sherine 5. Ol Tani Eeh / Nancy Ajram 6. Ya Hayat Alby / Hayfa Wahby 7. Ana Mish Illik / Aks'ser 8. Omar Sharif / Yuri Mrakkadi 9. Soutek / Tamer Hosny 10. El-Dameer el-Araby / Various Artists 11. Madad / Mohammad Mounir なんだ、またハイファかよ!などと突っ込まないで下さい..

『アラブ・ミュージック』発売! [仕事]

709a1364.jpgいよいよ発売です!

手元に届くのが楽しみです。
詳しくはまた後日。

*****

といわけで手元に届いた本書を読んでいるところ。

解説すると、この本は2年前の2006年、国際交流基金で開かれた連続セミナー「中東理解講座 アラブ・ミュージック」が元になっていて、このとき講師をやった10人の文章を集めたもの。扱う内容は古典から現代まで多岐にわたる。なんとも豪華な執筆陣で、そんな中に僕の名前なんかが混じっているのは今考えてもおかしい感じがするくらいだ。

このセミナーが開講していたときには、僕も自分以外の方の回は2,3回しか見に行けなかった。講師は他の人の回もタダでみられるという特権があったのだから、もっとどん欲に聴講に行っておけばよかったのだが。今こうしてこの本を頭からじっくり読んでいると、つくづく勿体ないことをしたと思ってしまう。松田先生のあの古典の解説を音入りで聴けるなんてまたとない機会だったし、石田さんの回では臨場感あるルポをきれいな写真と音楽付きで楽しめたわけだ。(とりあえずここまで読んだ)

自分の回はといえば、例によってビデオクリップという「飛び道具」に頼り切った回になってしまっていたと思う。テンションあげて講座に望んだつもりだが、僕のしゃべりは拙いので、どれだけおもしろさが伝えられたか。まあ、僕はそもそも喋りよりは文章で勝負するタイプの人なので(笑)、この本をごらんになってもらえればそれで十分、かもしれない。その代わりビデオクリップのおもしろさは伝えにくくなるけど。

あと反省はといえば、ディスクガイド。僕が紹介しているやつは選曲が微妙に古いです。でも、自分にとって多少なりとも思い入れのあるアルバムを選んでこうなったわけなので、どうかご勘弁を。

もうじきアマゾンなどでも手にはいるでしょう。それまではこちらをご覧ください。

踊るイベント告知 [仕事]

20f7ed93.jpg今回もアラブポップスのことを語らせてもらうのですが、ゲストはなんとピーター・バラカン氏!もう抜き差しならない事態になってしまいました。
第12回中東カフェ「踊るアラブ人」
トーク: 中町信孝
ゲスト: ピーター・バラカン
日時:2008年2月1日(金) 18:30~21:00 (開場18:00)
会場:キューバン・カフェ @汐留
Arabポップスの最前線
アラブポップスの伝道師、中町信孝さんがアラブの若者に今一番人気の音楽シーンを音と映像で紹介。ゲストには世界の音楽を知るピーター・バラカンさんをお迎えし、国境を越えるアラブポップスのエネルギーと魅力に迫ります。音楽の向こうにアラブの“今”が見えてきます。

詳しくは中東カフェのウェブサイトをご覧下さい。

早稲田大学でのイベント [仕事]

来たる11月8日、所属する大学で報告会を行うことになりました。若手研究者の研究報告を行うイベントです。所属先とはいえ、公式サイトで今までのラインナップを見る限り、今回の発表、「アウェイ」という感じがします。心ある方、応援に来て下さい。参加資格は問いませんし、入場料はただです。

発表内容・詳細は、下記案内文中のPDFファイルをご覧下さい。
第3回 次世代アジアフォーラム

タイトル 「ポピュラー音楽に見る現代アラブの帰属意識
――民族・国家・イスラーム」
発表者 中町 信孝 早稲田大学アジア研究機構アジア研究所助手
コメンテーター 小島 宏 早稲田大学社会科学総合学術院教授
日時 2007年11月8日(木)17:00~18:30
場所 アジア研究機構会議室
(西早稲田キャンパス9号館9階917号室)
使用言語 日本語
申し込み お名前、ご所属、「参加希望」と明記し11月7日までに下記のメールアドレスまでご連絡下さい。
asianstudies@list.waseda.jp
資料 概要・報告要旨(PDFファイル 2.11MB)
主催 早稲田大学アジア研究機構

夜噺終えて夜も更けて [仕事]

というわけで百人町音樂夜噺を無事乗りきってきました。ご来場の方々には本当に厚く御礼申し上げます。

いつも仕事で使うような大教室や講演会場とは違って、今回のNAKED LOFTさんは客席との距離が近く、お陰でリラックスして喋ることができたと思います、いつもよりは。

反省材料はいくつかあるのですが、ひとつだけあげれば、やはり最初にウンム・クルスームの1時間にわたる長尺CDを紹介するときに、ずいぶんゆっくり聴かせすぎて、お陰でその後の時間配分がきちきちになってしまったこと。秒単位の進行表を作っておくべきでした。

あと、今回はビデオクリップに頼らない!という心づもりでいたのですが、唯一使ったナンシー・アジュラムのライブ映像のDVDが、一番ウケが良かった、というのも複雑な心境です。あれこれ理屈をこねても、ナンシーのビジュアルを含めたパフォーマンスの魅力にはとうてい太刀打ちできないわけです。まあ、そう言う魅力も含めてエジPOPなわけですが。

それにしても新大久保は凄いです。出番待ちをしているときに、エリック・ツァン似の黒社会のボスみたいな人が、手下をしたがえてワントップ・フォーメーションでビルに入ってきたときにはさすがにびびりました。今回のイベントには無関係な方々でしたが(もちろん)。それから帰りに駅に戻る途中のホテル街では、お姉さん方がいっぱい立っていて客待ちをしてました。そのうちの1人にすれ違いざま袖を引っ張られたときにはキモが縮みましたが、すかさずサーミー・ユースフの癒し系フレーズを脳裏に浮かべて平常心を保ちました。

いよいよ明日! [仕事]

naked百人町音樂夜噺」がいよいよ明日となりました。

アラブ音楽の話と言えば、僕は普段、アラブ文化に興味のある人(あるいは興味はなくても単位を取らなきゃいけない人)に向けて話すことが多かったのですが、今回は「アラブ」というよりは「音楽」に関心のある、言ってみれば耳の肥えた聴衆に向けて話さねばなりません。「飛び道具」のビデオクリップも必要最小限の使用です。そんなわけで、いつもよりも多少緊張しております。

ところで今回の会場NAKED LOFTは新大久保は職安通り沿い(コリアンタウン)のお店。新大久保と言えば僕は高校時代毎日通っていた駅なのですが、その時代から数えると今年で16年ですか。そう言えば高校卒業の時に兄のところに生まれた姪っ子が、今や高校生ですからねえ。

ともあれ、当日券もありますので、是非是非お越し下さい。

百人町音樂夜噺
第01夜:'07年2月23日(金)
濃厚なるアラブのうたを求めて
~オラン/カイロの歌謡とポップス
論 者:粕谷祐己 (金沢大学文学部教授)
   :中町信孝 (早稲田大学研究員、アラブ史専攻)
司 会:関口義人 (「音樂夜噺」主宰)

アラブ世界に拡がる濃厚で痺れるような歌謡の世界。今回はアルジェリアのライやエジプトのシャービなどに代表される「うた」の魅力や、その成り立ちについて現地を体験されるお2人に語っていただきます。滅多に聴くことのできないお噺と音楽をお楽しみに!

渋谷でアラブ [仕事]

新年あけましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。

昨年は本業の方がとりあえず一段落し、のんびり年明けを迎えることができました。とはいえまだまだゴーサインが出たわけではないので、首を洗って待っている状態ですが。

さて、エジポップ関連では、さっそく下記のようなイベントに参加します。去年の国際交流基金の「アラブミュージック講座」以来お世話になっている関口義人さんの引き合わせで、「ライ大好き」の粕谷祐己さんとともにアラブ世界の歌謡曲について語ることになりました。

「渋谷」での開催のこのイベント。近頃遊ぶところといえば「光が丘」(!)な僕にとっては、やや気が張るところではあります。とはいえ、今まで僕が参加するこの手の会は、いずれも会員登録が必要だったりとやや敷居の高めな会が続いていましたが、今回のはオープンな会ですので、興味のある方は是非お越し下さい。

桜ヶ丘町音樂夜噺
第16夜:'07年2月17日(土)
濃厚なるアラブのうたを求めて
~オラン/カイロの歌謡とポップス
論 者:粕谷祐己 (金沢大学文学部教授)
   :中町信孝 (早稲田大学研究員、アラブ史専攻)
司 会:関口義人 (「桜丘町音樂夜噺」主宰)
アラブ世界に拡がる濃厚で痺れるような歌謡の世界。今回はアルジェリアのライやエジプトのシャービなどに代表される「うた」の魅力や、その成り立ちについて現地を体験されるお2人に語っていただきます。滅多に聴くことのできないお噺と音楽をお楽しみに!


1/20追記
このイベント、事情により時間と場所が変更になりました。詳しくは上のエントリで。

スーフィーファン必見 [仕事]

今週土曜、イスラム国家論研究会という会合があります。

月一ペースで開催される学生の研究発表会なのですが、今度の会では、ワールドミュージックファンの間でにわかに人気沸騰中の「スーフィー」について、新井一寛さんによる報告があります。そしてコメンテータには、なんとあのサラーム海上さん!

映像資料を用いた発表と言うことなので、現地での貴重な映像がたっぷり堪能できることでしょう。東京近郊にお住いで興味のある方、「かた苦しい会だ」などと思わずに是非お越し下さい。

以下、上記サイトより転用。
12月例会のお知らせ 12月例会は、京都大学の新井一寛さんに発表をお願い致しました。 下記の内容で発表して頂く予定です。大勢の方々の御参加をお待ちしております。 記 日時: 12月16日(土) 13時30分~17時00分 会場: 東京大学(本郷)法文1号館112教室 報告者: 新井一寛 氏(京都大学大学院・博士課程) 題目: タリーカ接触・音響組織論への展望:映像資料の分析的活用などを通じて コメンテーター: サラーム海上氏(音楽評論家・DJ) --------------------------------------------------------------- 報告要旨: 本発表ではまず、概論としてタリーカ組織論について述べる。タリーカ組織論を行う場合、タリーカの構成要素のどの要素に力点を置いて考察するかでタリーカ像は変わる(最終的には複合的に考察するのだが)。いくつか思いつくのが、カリスマ集団、儀礼集団、理念集団・・などとしてタリーカを設定することである。また、分析視角によっては、既存の宗教集団論を応用して、T型集団、R型・・などと類型論的に整理することもできる。こうしたことを前提として、本発表では、儀礼に力点を置いた組織論的考察の展望について述べる。この研究によって、「濃密」なタリーカ像を描写することが可能になると考えている。  ある教団の宗教実践では音楽が多用される。発表者の観察による直感では、その音楽(リズム)は4つの注目すべきタイプがある。それらは、個々or集団で恍惚に至るもの、有機的共同性or近代的組織性を育むものである。シャイフはDJのように、それぞれの音楽を使い分け、同教団を近代的組織性や擬似家族性、感情性などの特徴を複合的に有するひとつの宗教集団として維持・運営している。今後こうした研究を、フーテージ・フィルムの分析的活用や、クラブとの比較研究、トランス研究、音楽心理学における方法論の応用(それらの分野の方々との共同研究を視野に入れて)によって、実証的に進める予定である。  そこで、本発表では、「生の」アラブ音楽(スーフィー音楽にも)に通じておりかつご自身もDJをなさっているサラーム海上さんにコメントをいただき、今後の展望としたい。ちなみに発表時には実際に映像を活用する(昨今、関西圏を中心に盛り上がっている、研究上における映像活用についても、本発表中に述べる予定)。またサラーム海上さんにも、コメントの際にご自身のスーフィーとの交流体験をカッワーリーなどの映像を交えてお話して頂く予定である。 --------------------------------------------------------------- 会場は、東大正門から入って銀杏並木を直進し、左側2番目の棟です。銀杏並木沿いの扉から入り、左手の通路を奥までお進み下さい。

アラブのアイデンティティ複合 [仕事]

8dc4058f.bmp以前、雑誌『遠近(をちこち)』に載せてもらったエッセイでは、昨今のアラブ・ポップスの動きを見ていると、「かつてのアラブ主義が息を吹き返しているように見える」などと書き散らしたものだが、今にしてみれば若干単純化しすぎた物言いだったかなとも思える(このエッセイの内容についてはカフェ バグダッドさんのブログで紹介してもらっています)。実際にアラブ芸能界で起こっていることは、もっと複雑だ。

例えば以前何度か取り上げた「ぷちイスラーミズム」。オシャレな若者が、さりげないイスラーム的実践に引きつけられるという現象だ。歌手サーミー・ユースフのビデオクリップはエジプト人スタッフによるものだが、彼の歌の国境を越えた受容のされ方は、この現象が「アラブ」という枠組みを超えた理念的「イスラーム世界」への帰属を訴えていることと合致している。

その一方、人気歌手ナンシー・アジュラムが歌う「私はエジプト人」に見られるように、(エジプトの)一国主義的価値観を表明する歌もある。先のエジプト大統領選挙期間中、テレビで頻繁に流されていたシーリーンの「わが祖国」など、この手の歌も1つの潮流を成していると言っていいのではないか。これがレバノンへ行けば対応物として、一連のハリーリー追悼ソングがあったりする。

で、上に挙げた図だけど、これは加藤博氏が昔ある本で使っていた「アラブのアイデンティティ複合」の図だ。アラブ世界に住む個々人の帰属意識のあり方一般を示したものともとらえられるし、近代化の過程に現れたアラブの様々な政治運動を示すものとしてみてもいい(この図って今の学会でも有効なんですか?)。で、この図が、上に挙げたアラブポップスにおける一連のメッセージソングに現れる潮流を分析する指標としても、かなり有効なように見える。

ただし、このモデルを使って、例えばサーミーの歌を聴く層はニューリッチ、ナンシーを聴くのは低所得層、みたいな棲み分けが描けるとしたら(逆でもいいですが)、さぞ面白かろうと思うが、きっとそんな棲み分けなど描けないだろう。大半のシャバーブたちは、サーミーやWAMAも聴けば、ナンシーやシーリーンも聴く。むしろ、多くのアラブ人の意識が、上の図で言う白い部分をふわふわと漂うような「ぷち保守」的傾向にあるんじゃないだろうか。これを「アイデンティティ複合」とか「選択的アイデンティティ」などと格好いい言葉で呼んでみても、何も始まらないのではないか。

...ってなことを、こないだの某大オープンカレッジでの講義の際に語ってきました。いやー、我ながら、ビデオクリップとオンラインの芸能ニュースサイト、それからブログに寄せられた意見だけで、よくもまあこんな大風呂敷が広げられたなあと、あきれてしまいます。どなたか卒論とか修論とかでこのネタ使いたい方がいたら言って下さい。動画資料(ビデオクリップ)を提供します。

エジプトの「ぷちイスラミズム」 [仕事]

2aca79ee.jpgネッとも(マイミク)のReikoさんから教わったWAMAのKan nefsi(心から願う)という曲。

Melody Entertainment(視聴には要登録)
Video Arab (Arabic Videos Library): Wama

エジプト版バック・ストリート・ボーイズと言う風情のイケメン(とは言い難いのが1,2名混じっているが)4人組が、熱いまなざしで歌っている歌詞は実は、預言者ムハンマドに向けた熱烈なラブソングだ。

2004年のサーミー・ユースフのブーム以来、この手の宗教的なメッセージを込めた歌がよく出てくる。あのムスタファ・アマルもフスハーで宗教的な歌を準備中らしいし。さらに遡ると、ムハンマド・ムニールの「大地、平和」とか、ヒシャーム・アッバースが歌った神の99の美名の歌なんかは、この路線のハシリかも知れない。

ハイソでお洒落な若者たちの信仰心。こないだのムハンマド風刺画事件など、ふとしたきっかけで爆発してしまうこともあるが、普段はいたって冷めたもの。テロや狂信といった言葉とはかけ離れたイスラームの姿だ。これを「ぷちイスラミズム」と呼んでみることで、何か新しい理解の仕方が生まれるのではないだろうか。

アラビア語シャドーイング用 [仕事]

昨日テレビの中国語会話を見ていたら、金子君がシャドーイングというのに挑戦していた。ネイティブスピーカーの読みあげる文章を聞きながら、それをそっくり真似するという語学の練習だ。

そこで紹介されていたNHKの国際ニュースには、中国語だけでなくアラビア語版もあった。

NHK World Daily Newsアラビア語

RealPlayerで音声が聞けるばかりか、読みあげられているニュース原稿もアラビア語で公開されている。

しかも、BBCのアラビア語ニュースなどと比べると、心なしかペースがゆっくりのような気がして(時にとちったりもする)、シャドーイング初心者にはもってこいではなかろうか。

こういうのがpodcastで配布されていればありがたいんだけど。

JFアラブ音楽講座を終えて [仕事]

昨日のアラブ・ミュージック講座、見に来て頂いた方(でこのblogを見てる方はあまりいないでしょうが)、どうもありがとうございました。

おかげさまで無事喋りきることができました。初めはえらく緊張していたのですが、いざ始まると手持ちのビデオクリップ自慢をしているような気になって、いらぬ小ネタまでいろいろと喋ってしまいました。(アラブ人は寒い国のファッションが好きなのでタバコの煙でもって白い息を表現したビデオクリップがあるくらいだ、とか、日本のメイドカフェにハイファーみたいなのがいたら秋葉原の人たちはさぞかしびっくりするだろう、とか。ターミル・ホスニーのビデオの冒頭がタモリ倶楽部を彷彿とさせる、っていうネタは披露しなくて正解だったろうか)

できるだけたくさんのビデオクリップを映像として見てもらうのが目的だったので、曲の説明をしたら容赦なくばしばしと飛ばしてしまいました。じっくりと音楽を鑑賞したい方にとってはちょっと物足りないところもあったんじゃないかと思いますが、準備した曲の8割方はお見せできたので、一応僕としては満足です。

ただ、用意した話題のうち、映画関連のトピックをすべてカットせざるを得なかったのは、全く持って残念です。最後の「ポップスとアラブ主義」の話を端折ってでも無理やりやっておくべきだったかな、と後悔することしきりです。ビデオクリップの導入でもって、各地域の大衆音楽が一新される、っていうのは多分世界中どこでも起こったことなのだと思いますが、エジプトの場合はクリップが突然導入されたのではなく、その前に映画音楽の伝統がしっかりと根付いていたので、ある種エジプト独特のポップス文化が醸成されていった、みたいなことを言いたかったのですがね。

会場では久々に会う人や、以前から名前は知っているがネット上でしか会ったことのなかった人など、色々な人に会えました。サラームさんとご挨拶できたことも大きな収穫でした。

さて、この一週間は、資料用ビデオクリップの編集作業に明け暮れておりましたが、これでようやく本業に打ち込めそうです。と思って机に向かったところ、頭の中をまたあの歌が流れてきました(♪アナー、コッリ・ケダ・ミルキ・ハワ~)...リハビリにはまだ少し時間が掛かりそう。

なお、資料用ビデオクリップを編集した自作DVDの試作品が、手元に二枚ほど残っております。欲しい方には差し上げますのでおっしゃって下さい。では。

ジャパファン中東理解講座 [仕事]

自分が関わるイベント活動の宣伝です。

国際交流基金(通称ジャパファン)で、アラブポップスのことで一席持たせてもらうことになりました。「アラブ・ミュージック―その深遠なる魅力に迫る」という通しテーマで、10人の講師の持ち回り講演のうちの1コマです。詳細は下記URL。

Home>文化芸術交流>トピックス>中東理解講座 2005年度 第3期

講師の方々の名前を拝見すると、いずれも名だたるアラブ音楽の演奏家、研究者、評論家等々。よくもこれだけのメンツを集めたなあという感想です。僕はと言うと、このメンツを見ただけで萎縮してしまって、またぞろ素人臭い話しか出来なさそうです(笑)。

しかしまあ、アラブポップスへの情熱と、持ってるビデオクリップのDVDの数では他の方には負けないつもりなので、精一杯やらせてもらいます。

定員100名、全10回で参加料10,000円だそうなので、関心のある方は是非チェックを。

「をちこち」と読む [仕事]

6de17973.JPG国際交流基金の出す隔月刊誌『遠近』、6月1日に発売された第5号は、「知られざるアラビア世界」特集。「アラビア世界」という呼称にはなんとなく違和感があるが、監修に当たられた片倉先生のご持論のようだ。

で、今号に「音楽:ポップスにアラブの声を聞く」と題して4ページほど文章を書かせてもらいました。90年代以降のアラブ・ポップスを大胆に概観したレビューで、まあ何というか、いい加減な風呂敷を広げています、我ながら。

これまたレアアイテムかも知れませんので、書店で見つけられたら即購入して下さい。以上宣伝。

季刊『アラブ』 [仕事]

このブログなどで書き散らしていたイラクの「ブルトゥカーラ」(フスハー風表記)なる歌について、エッセイを書きました。
掲載紙は季刊『アラブ』!知る人ぞ知るアラブ情報誌です。普通は政治経済に関するもっと堅めの記事ばかり載っている雑誌なのですが...良いんでしょうか、僕みたいなのが書いて。 タイトルは「アラブ・ポップス最前線-イラクのブルトゥカーラ現象」。本当は「~最前線(1)」としたかったのですが、さすがにそこまでお願いする度胸はありませんでした(笑)。 文章の方はかなり気合いを入れて書きました。アラブ・ポップスについての仕事、第一号なわけですから。しかし、本来「エジPOP」専門..じゃなくってエジプト中世史専門の僕がこんな文章書いて良かったのかという自責の念もおこらないでもないです。投稿する前に編集の某氏に、「イラクに行ったこともない人間がこんな文章載せてもらっていいんでしょうか?」とたずねたところ、某氏曰く、「今やイラクの現地体験なんて、危険すぎて誰にも不可能!」との心強いアドバイスをもらいました。 それでも刷り上がった本誌の目次を見て、そこに自分のエッセイが並んでいるのを見ると、やっぱりこれで良かったのかなという感じがしましたね。師岡カリーマさんの隣接ページに掲載されたということが、とりあえずの収穫でしょうか(カリーマ・ファン)。興味のある方は各種公共図書館でチェケラ!(多分普通の書店には並んでいなさそう)

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