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アメコミとポケモンの間らへん [読書]

368d21fe.gif「イスラーム圏初のヒーローコミック『The 99』」(ソース:R25)という情報を知り合いに教わった。

で、さっそくデジタル版を買ってみた(我ながら早ッ)。

まず最初の巻の前書きで作者が面白いことを書いている。
われわれの主人公たちは、スーパーマンやバットマンみたいな、西洋的なindividual heroesでもなければ、東洋のポケモン型の、チームワークや共有する価値観ですべてを乗り越えていくのでもない。彼らは東洋と西洋との混合体だ。

なるほど、アメコミとジャパニメーションの双方の良いところを取ったアラブ版というところか。

で、まだ初めの数冊しか読んでいないが、いやー、これは面白い。アッバース朝が滅ぶときに、「知恵の館」、ダール・アル=ヒクマの叡智の粋を結集して作った99個の「ヌール・ストーン」が、フレグの征西の際に持ち出され、なんやかんやあってちりぢりになり、現代になりそれぞれの玉の能力を持つヒーローが登場する、というプロローグ。史実に題材を取った壮大なファンタジーを予感させる。 99の玉の能力というのは、ご存じイスラームの神の99の属性に対応していて、「制圧者(ジャッバール、الجبار)」「光(ヌール、النور)」「害を与える物(ダーッル、الضارّ)」なんていうキャラが次々と出てくる。99という数が多いという意見もあるが、水滸伝の108人に比べれば9人少ない。 で、上のR25の記事には「登場するヒーローは..イスラム教徒の男女」とあるが、これは間違いで、どう見てもイスラム教徒ではなさそうなアメリカ人やらポルトガル人やらも能力の持ち主として登場するようだ。要は、「神の美名」というのは単なる方便で、ファンタジーを成り立たしめるベースではあるものの、物語全体が宗教ベースというわけでは全然ない、というのが僕の感想だ。 似た例を挙げるならば、『ジョジョの奇妙な冒険』第三部の「スタンド」。あれは確かそれぞれのキャラがタロットカードの絵柄に相当するスタンド能力を持っている、と言う設定だった。ちょうどそんな感じで「神の美名」が使われているのだ。そう言えば絵柄も何だか似てる気がするし、ひょっとしたら作者は『ジョジョ』を読んでる?とさえ思えてきた。いや、『ジョジョ』もアメコミを意識して描いているだろうから絵柄が似ていても不思議はないのだが。いずれにせよ、何でもかんでもイスラームで説明しようとしてはいかん。 序盤ではまずサウジの少年が「ジャッバール」の力に目覚め、次にアラ首連のシャルジャの女子大生が「ヌール」の力に目覚める。その二人が本作全体の道化回しとも言えるドクター・ラムズィーの引き合わせで出会い、それからアメリカの「ダーッル」の持ち主を探しに行く、という展開。公式サイトの人物紹介を見ると、これからロンドンやらインドネシアなど舞台が広がっていくものと思われる。「地球の運命」と言いながらアメリカのことだけしか描かないハリウッド的世界観に比べれば、何ともワールドワイドだ。 そんなわけで今、この漫画のこの後の展開が気になって仕方がない。『The 99』が乗り越えるべき課題としては、こんなものがあるだろう。 第一に、敵の設定をどうするか。今のところ、中世のアラブ人科学者(マッド・サイエンティスト?)の化身であるラグルという人物が悪役らしいのだが、彼は何を象徴するのか?アメリカとか資本主義が敵、というのでは、お馴染みの文明の衝突的二項対立の裏返しになってしまい、面白くない。プロローグでのモンゴルの扱われ方や、ラグルが香港に拠点を置いていることからすると、日本や中国も含めた東洋人(=非一神教徒)が敵、となるか。それではちょっと悲しい。 第二に、99の属性は確かに盤石な基盤だが、それにのっとってキャラを99かき分けるというのは、至難の業だろう。確かに、そんなに主人公が出てきたら読者は混乱する。しかし、水滸伝では「ハンコ作りの名人」みたいなどうでもよさげな能力の持ち主が、108人の英雄豪傑の1人とカウントされていたりする。本作でも、暗算が得意で飲み会の時に重宝する「ハスィーブ(正しく計算する者)」みたいなキャラで埋め合わせをしても良いだろう。「ラフマーン」と「ラヒーム」を双子の兄弟にするとか。 第三はやっぱり、宗教的権威筋からの横やりが入らないことを祈るばかりだ。 ちなみに上記記事の「イスラーム圏初」という表現も、やや正確さを欠く。このブログで以前取り上げたように、エジプトではすでにアメコミ風漫画が登場している。ただし、それらがその後騒がれていないところを見ると、どうやら定着しなかったのだろう。 ともあれ興味ある方は、上記のオンラインショップで無料版を手に入れられたい。本作の壮大なるプロローグと、ジャッバールが登場する「The Origins」の巻が手に入る。また、これからどんなキャラが登場するのか楽しみでならないという方は、ここで神の99の名前をチェックしておきたい。
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