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男は背中で育児する?その2 [育児]

先に紹介した前島氏の文章は、ガテン系の父親たちの肉声を代弁しているという点で、イクメン推進派の皆さんにとっても真剣に考えるべき重要性をもっている。しかし、父親の育児は母親のそれとは違う、より高次元のものだ、という見方は実に根強く、ネット上にも他にいくらでもサンプルが見つかる。

たとえば、以前みかけたこのツイート。どこのどなたかは存じ上げないし、今やキャッシュでしか見つけられなくなっているので勝手に引用だけします。すみませんが。
我が子の人間教育、基本としての躾の責任は、9割までは日常の大半をともに過ごす母親にあり、 父親の役割は、自分の人生観にもとづいて人間としての生き方の方向を示すこと、子供に生き方の種まきをするところにある。

こういうつぶやきを残しているからと言って、この人が具体的な子供の世話を全く見ない人であるとは限らない。日頃かいがいしくおむつ換えなどをこなしてきた方の発言かもしれない。

しかしそういうならば、母親には子供に生き方の方向を示すことはできない、というのだろうか?母親だって、かりに専業主婦だとしても、家事や育児をとおして立派な生き様を示すことくらいできるのではないだろうか(もちろん学校や地域社会と関わりを持つ人もいれば、男性と変わらず働く人だっているし)。

そして極めつけはこのブログ。ファンも多い超有名人のブログなので、リンクは張りません。チキンなもので...以下引用。
「母親」の仕事は子どもの基本的な生理的欲求を満たすこと(ご飯をきちんと食べさせる、着心地のよい服を着せる、さっぱりした暖かい布団に寝かせるなど)、子どもの非言語的「アラーム」をいちはやく受信すること、どんな場合でも子どもの味方をすること、この三点くらいである。 「父親」の仕事はもっと簡単。 「父親」の最終的な仕事は一つだけで、それは「子どもに乗り越えられる」ことである。 この男の支配下にいつまでもいたのでは自分の人生に「先」はない。この男の家を出て行かねば・・・と子どもに思わせればそれで「任務完了」である。 (…中略…)人類学的な意味での親の仕事とは、適当な時期が来たら子どもが「こんな家にはもういたくない」と言って新しい家族を探しに家を去るように仕向けることである。

ここでは父親の役割に多少ひねりが加えられているが、言ってみれば子どもの反面教師たること、となるだろう。上記のツイートと正反対のようでいて、そのじつ同じ指向性を持つと言っていい。つまり、父親だけが子供の人生の指針を与えることができ、母親はこまごまとしたお世話のみしてろ、ということである。

それにしても母親の扱いが、ここではひどすぎる!「「母親」の仕事は子どもの基本的な生理的欲求を満たすこと」...なんという直球セクスィズムだろうか。こういうことをずばりと言ってのけるから、みんな「そこにしびれる!あこがれるぅ!」となるんだろうか?

しかしまあなんだ。こういう文章を読んで、僕のような後進が「これはひどすぎる。こんな論壇の閉塞状態は打ち破らねばならぬ。もっと精進せねば!」と奮起するとしたら、それはまさしく上記ブログの筆者が「人類学的な意味で」、学界の家父長としての任務を正しく遂行していることになるわけだから、僕などは所詮、筆者の掌上で飛び回っているだけと言うことになる。嗚呼、U先生の知謀、神のごとし...

これらの発言に見られる、家庭内での男女の役割を非対称なものととらえて全く改めるところのないような姿勢に対しては、昨今はやりのイクメン思想を十分にアッピールする必要が大いにあるだろう。

しかし、前エントリに書いたような立場、つまり、育休なんてエリート社員や公務員じゃなきゃ無理、おれたちゃやりたくてもできねー、みたいな階層格差的な意見が、ある種の人々の支持を集めているとしたら、いくら政府やら社会がイクメンを推進させようとがんばって宣伝したところで、その声は人々には届かないだろう。代わりに彼らのニーズにぴったりフィットする上述先生のコラムのような主張が、ますます歓迎されることになる。なにせ、「人類学的意味」だかなんだかから、こまごました育児作業は男の仕事ではないとお墨付きを与えてくれてるようなものなのだから...こうして悪循環に陥る。

そこで一つ思うのだけど、イクメンやっかみ派の人々にとって、育休つまり育児休暇の取得はものすごくハードルが高いものだ。政府は男の育休取得をもってイクメンの指標としているフシがあるけど、あまりそればかりを協調しすぎると、上記のような悪循環を生み出すのではないだろうか。会社員でもガテン系でも、育児や教育に関心を持つお父さん方を少しでも多く取り込もうとするには、育休という高いハードルをもうけて「背中で教える」系の牙城に閉じこもらせてしまうのは、全く得策ではないと思うのだが、いかがだろう。

イクメンの普及には、まだまだ超えねばならない高いハードルがあるように思う。
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