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イタい先生の話 [読書]

FUTON

正直、この作品を読むまで、田山花袋の『布団』のことは、読んでみようと思ったことさえなかった。花袋自身がモデルとなっている中年の文学者が、若い女弟子に横恋慕し、しかし案の定女弟子は恋人を作って去って行ってしまい、文学者は去った女弟子の残して行った布団に顔をうずめて泣く、という話だそうだ。なんともイタくて情けない話にしか聞こえないが、青空文庫でそのさわりをちらりと読んでみると、この中年文学者の設定が「35~6歳」となっており、なにやらどきっとする。

で、その現代版翻案とも言えるこの『Futon』は、花袋を研究するアメリカ人大学教授デイブを主人公にし、デイブが若い日系人の学生相手に『布団』を地でいくようなみっともない恋愛をしているという「イタい」ストーリーを軸にし、そこにデイブの執筆する『布団』のスピンオフ小説を挟み込みこみながら描いたもの。さらに、デイブの物語に加え、東京に住んでる女学生の曾祖父と、彼に関心を持つ若い画家イズミのストーリーも加わってくる。

感想としては、はじめデイブと、作中小説の中の時雄(つまり、『布団』の主人公)との痛さ加減が面白く、引き込まれて読むが、次第に比重を増していく女学生の曾祖父の、曖昧模糊とした記憶の世界についての描き方が、実に興味深く思えてきて、あっという間に読了してしまった。

記憶の構築性、「人の思い出話なんて当てにならないものだ」、っていうような話という点で、カズオ・イシグロの作品を連想するが、この『Futon』では、その思い出の曖昧さというか虚構性が、お年寄り(しかもほとんど「ボケて」いるような)の繰り出すのらくらした一人語りとして書かれているのが、なかなかにスリリング。

これだけ登場人物が多いにもかかわらず、どの人物の心理描写にも破綻した所がない(ように見える)。スピンオフ小説の部分だけとっても十分に読み応えある短編になりそう。感服。
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