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「アル・ジール」とは何だったのか? [音楽]

アラブポップスを眺めるに当たって、「ジール(jeel)」とか「アル・ジール(al jeel)」とか呼ばれるジャンルがある。一般に、アムル・ディヤーブなど、エジプトのメインストリームのアイドル歌手たちの歌う歌のことを、指すことが多い。この用語について僕は今までに書いた文章の中で、「すでに時代遅れのターム」と指摘してきた。現代のアラブポップスを指す用語としては、それに代えて「シャバービー(shababi、若者の)」という用語を使う方がよいと考えている。(これは何も僕の独創ではなく、さる英語の文献を参考にしているのだ)

じゃあそもそも「アル・ジール」とは何なのかというと、リビア人プロデューサのハミード・シャーイリーが、アムルやハキーム、ヒシャーム・アッバース、ムスタファ・アマルなどと組んで、80-90年代に制作し、がんがん売れていたヒット曲たちのこと、というのが僕の考えだった。しかし、90年代になってからの音楽、たとえばアムルの「Nour el Ayn」などは、サウンド的に相当に垢抜けしており、現在のシャバービーなアラブポップスとあまり変わるところがない。とすると、90年代まで生き残っていたアル・ジールと、2000年以降のシャバービーとを、あえてジャンル分けすることの意味は何なのか?というあたりで、僕の「アル・ジール」理論には不確定なところがあったのである。

ところが、最近になってPop Culture Arab Worldという本を読み返し、アル・ジールについての見解を改めねばならないことに気づかされた。

著者のAndrew Hammond氏によれば、アル・ジールの元祖はハミード・シャーイリーのプロデュースしたリビア人(実際にはマルサ・マトルーフ出身だそうだ。ということは、エジプト人)」歌手Ali HemeidaのLaw Leki (1988)だとのこと。この曲ではその後10年のアラブポップスを支配するフォーマットができあがっていると言い、それはすなわち
"Lybian clapping, finger cymbals, and a drum machine with a beat that mimicked the hip swings of belly dancing, which every Arab learns as a child."
でもってこの曲、当時6万枚カセットを売り上げたということ。むろん、大量に出回ったであろう海賊版については集計する手段がないので、実際の売り上げはこれを遙かに上回る。

どんな曲か気になったので検索したら、こんなビデオが見つかる。かなり耳に残るメロディーなので、注意されたい。
打ち込み主体の伴奏はいかにも安っぽい感じがするが、その後のNour el Aynまでに至る進化の道筋は容易に描けそうだ。

もういっちょ、この時期のアル・ジールを語るに欠かせない歌手として、Hananというエジプト人女性歌手がいるらしい。そちらの出典はこのサイト。で、こっちもビデオを見つけた。「エジプシャン・スマイル」と評された彼女のパフォーマンスを是非見ていただきたい。

なんちゅう声の裏返り方!いずれにせよ、ウンム・クルスームやハリームなどの世界とはがらりと変わった世界が提示されている。現代のアラブポップスができあがる前に、間違いなくアル・ジールと呼ばれる世界が存在したのである。

だがしかし、ウンムやハリームが亡くなってから、上に見たハミード・チルドレンが出てくるまでにはまだ10年くらいのタイムラグが残る。この間、いくらサダト期の停滞期だからと言って、エジプトから誰も歌手が出てきていないわけではなかろう。どうやらこの10年には、まだまだ何かが隠されているようだ。それについてはまた後日。

さしあたりはハミード本人の情報を集めるとしよう。
http://hamid219.tripod.com/index.html
http://www.jeelmusic.tk/
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