SSブログ

アラベスクってなんだ [読書]


音楽のアラベスク―ウンム・クルスームの歌のかたち
タイトルの「アラベスク」って何のこと?と思っていたのだが、この「アラベスク」こそが本書第三章で、ウンム・クルスームの代表曲三つを分析する際の、重要なキー概念となるのだった。本書は三章構成。 第一章はアラブ・イスラーム音楽の歴史概観。アッバース朝や後ウマイヤ朝でのアラブ音楽の隆盛などもまとめられている。しかし何を参照したのかあまり言及されていないのが残念。 第二章はウンム・クルスームの生涯史。詳しい記述があるが、これもソースが記されず。 メインとなる第三章は、「アラベスク」概念を用いた筆者独自の分析で、本書の核心部分。ここで言う「アラベスク」とは、例の唐草模様のこと。筆者はこの模様こそが、アラブ人、ひいては「イスラームのもつ思考特性とほぼ一致する」と看破し、ウンム・クルスームの楽曲の中から「アラベスク様式」なるものを抽出するのである。 楽曲の中の「アラベスク様式」というのは、唯一性、抽象性、反復性などなどの特徴を指しており、それは唐草模様の特徴と共通しているという。それがインターアートというものだそうだ。 筆者の楽曲の分析は、それぞれ、歌詞の原語提示、その和訳、前奏部・間奏部の採譜、マカーム(旋法)抽出、そして、ステージ上でフレーズのどの部分がリフレインされるかと言うところまで至っており、微にいり細をうがっている。しかし、そんな綿密な分析があるだけに、出た結論が、ウンムクルスームの楽曲におけるアラベスク様式の抽出、というのは、何となく合点がいかない。 そもそもアラベスク模様がアラブ・イスラーム文化の本質!というような言い切りには、若干ついて行けないところがある。百歩譲って、このような言い切りに目をつぶるとしても、だからといって「アラブ近代音楽もまた、アラベスクの諸特質に支配されている」というのは、かなり飛躍があると思う。こうなると、歴史性とかアラブの中での地域性とか、そういう議論が入る余地も無くなってしまうのではないか?ドビュッシーと印象派絵画に共通する特徴がある、と言った話とは、違う次元の話だと思う。 とは言え、本書第三章を初めとする微細な分析や、現代アラブ音楽の概説などは、他では得られない貴重な情報。巻末のウンムクルスーム全曲リスト(曲名和訳付き)もかなりの労作。なにしろ、これだけの情報を邦文で読めるというのが嬉しい。アラブ音楽ファンは「買い」ではないだろうか。 わがままを言えば、アラブ歌謡はウンムクルスームをもって完成されてしまったわけではない。当然現代にまで息づいているものであり、その意味で、本書に「アムル・ディアーブ」のアの字も載っていないのは、どうかと思う。ファンだから言っているわけではなくて。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。