SSブログ

エジプト革命とエジPOPスター [音楽]

エジプト情勢、動きが速すぎてとてもフォローできないんだけど、とりあえず集まってる芸能情報を。

まず前エントリでMAD動画を紹介したシャアバーン・アブドゥッラヒーム。ツイッターでは「今頃大統領とデモ隊、どっちをけなす歌を作ろうか思案中」などと噂された彼が、2月5日に新曲を発表。どのエジプト人歌手よりも素早い対応だった。

ただし、ビデオクリップの映像は誰かが勝手にコラージュしたもの。本人は歌だけ歌ってるにすぎない。「革命はそりゃ立派だけど、そろそろうちに帰ろう」的な主張。でもって、スレイマンもバラダイも、どっちも駄目だという。皮肉の切れ味もちと鈍い感じだが、さすがに「バヘッブ・ムバーラク(ムバラク大好き)」とは言えなかったようだ。

次に飛び込んできたのはムハンマド・ムニールの新曲「どうよ?(izzay?)」。ムニールと言えばエジPOPの「王(マリク)」と呼ばれる大物。普段あまり政治色を出さないタイプの歌手なので、少し意外に感じる。

とはいえ、youtubeに挙げられてる説明を見ると、元々去年の10月に曲自体は作られていたが、今回のデモを受けて、映像をつけて発表されたということらしい。曲の歌詞をみると政治や社会のことなどには触れていない模様。普通のラブソング。ただ、2人称表現が女性形で書かれていて(エジPOPでは通常2人称は、歌手の性別を問わず男性形を用いる)、あたかもエジプト(女性形単語)に向けて「君に惹かれてしまうのってどうよ?」と言っているように解釈されるのではないだろうか。映像の方も、急ごしらえにしてはニュース映像などを効果的に用いている。

その後ばたばたとエジPOPシンガーたちが新譜を発表。

たとえば中堅歌手のヒシャーム・アッバース。「この国は僕らの国」。

2005年の大統領選挙以来、次々に作られているエジプト愛国ソングに連なるメッセージだ。たとえば2005年にシーリーンが歌った「我が国」のビデオクリップと、今回のヒシャームのビデオを見比べてみるといいだろう。シーリーンの曲の冒頭に出てくる農家のおっさんが、ヒシャームの2:05頃に全く同じ映像で登場する。エジプトを支える農家の人、コプトとムスリムが仲良く手を取り合う様子、そんなエジプト国民統合にはうってつけのシーンが目白押しだ。

それから庶民派伝統歌曲を得意とするイハーブ・タウフィーク。「エジプト人よ、さあ帰ろう」。

なんだか国営放送の呼びかけそのまんまな曲名で笑ってしまった。要するに、デモ隊はもう解散しなさいということ。映像面ではやはり、上記ヒシャームと同じ作りだ。ところどころニュース映像は挟んでいるものの、装甲車が市民をひき殺すシーンなどは当然ながら使っていない。デモを真っ向比定するわけではなく、やんわりと、そろそろやめたら?と促しているよう見える。

ちょっとわかりにくいのは、マフムード・エセイリーの「薬屋さん」。

「もしもし、薬屋さん?開いてますか閉まってますか?ここにけが人が居ます。何でケガしたのか知らないけど」
などととぼけた歌詞。タハリール近辺の混乱状況を描写したものか。つけられた動画は公式のものではなさそうだが、比較的、デモ派の若者にも受けの良さそうな画像が選ばれているように見え、上の2つとは毛色がちがう。つまり、「みんなもう帰ろう」とは言ってないし、かといって「ムバラク倒せ」とも言ってない。狡猾だ。

これだけいろんな歌手が曲を発表している中、エジプトのシャバービーを代表する新旧2大ビッグスターがまだ現れていない。アムル・ディヤーブとターメル・ホスニーだ。

しかしアムル、去年の末頃にリリースされたビデオクリップ「ぼくらの中の一人」は、もろにムバラク賛美の愛国ソング。

「祖国のために犠牲になった者よ」と呼びかける歌。ビデオの最後ではどどーんとムバラクの顔が浮かび上がる。多分、国営放送の作成。もちろん、これはデモ前に作られた曲だけど、舌の根も乾かぬうちにデモを支持したりはできないだろう。実際、2月3日の時点でアムルがムバラク・サポーターのデモに姿を現した、なんていう情報もdmcairoさんのツイートで知った。

とはいえ、同じアムルの曲にこんな画像をつけてる職人も見つけた。

今回のデモで命を落としたデモ参加者たちの追悼ビデオになっている。「祖国のために」と同じ言葉を唱えながら、方向性は真逆。興味深い。

ちょうどオランダだかどこかにツアーの最中だったターメルだが、実はすでにyoutubeの自分のアカウントに、「1月25日の犠牲者たちへ」と題する歌を即興で吹き込んでいた。で、てっきりデモ支持派だと思っていたのだが、国営放送の番組中の電話インタビューで、「デモ隊のみんな、そろそろ帰ろう」と呼びかけていたという情報が。それから緊急帰国し、何を血迷ったかタハリールのデモ隊の真ん中で同じ主張を繰り返してつまみ出されたという。帰れコールを浴びて涙目になってるターメルの動画、なんていうのも現れた。

...このように、多くのエジPOPスターたちは、なんとなく体制派の道具にされてしまっているような感じがする。しかし、誰をとっても、デモ自体に真っ向から否定的なことを言う人はいない。デモはエジプトの革命の伝統に則っており、それ自体は美しいものだ、と言う認識があるのだろうか。そこまでデモに理解を示した上で、「もうそろそろやめたら?」となるのである。「もうデモにもキファーヤ(たくさん)」とでも言いたげである。

このキファーヤ感覚、タハリールに集まっているデモ隊にはとうてい理解されないだろうが、タハリールに集まってない多くのエジプト人にとっての日常感覚にマッチしているのでは?とも思えてくる。

もう一つ、エジPOPスターたちの主張に共通するのは、エジプト人としての一体感の重要性。これは2005年の選挙以来、ワールドカップ予選でのアルジェリアとの死闘や、昨年末から起こってるコプト・ムスリムのヘイトクライムなどへのリアクションとして、しばしば見られる主張である。そして今回も、デモはいつか収束するだろう。収束した暁には彼らエジPOPスターが現れ、「もういがみ合うのはよそう」てな感じで愛国ソングを歌いまくるのだろう。いわば国民統合のための調整弁だ。

そんな流れの中で、エジPOPスターの中では唯一と言っていい、デモに賛同する言動をしているシーリーン・アブドゥルワッハーブ。タハリールの群衆に向けて、「私はもう国営放送では歌わない」と宣言したそうである。彼女も来るべき時には愛国ソングを歌って、エジプト国民統合の象徴となることが期待されているビッグネームであるはずなのだが、はて。今後の彼女の言動が気になるところである。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。